コラム

技術、データを秘匿管理するIT時代の守り 不正競争防止法改正のポイント

「米中冷戦時代」という言葉が歩き始めている。戦後間もなくから始まった米ソ冷戦時代は、共産主義と
自由主義というイデオロギー論争の背後で、核兵器を主体に軍拡競争を展開する戦争前夜の闇を感じさせた。

今回の冷戦は、技術競争であり知財紛争でもある。先鋭化した競争は、サイバー攻撃によるデータの搾取に始まるインターネット紛争に発展している。IoT、AIとビックデータに代表される技術革新が進展しているとき、
その守りをどうするのか。
米中冷戦時代は、技術を合法的に流用する戦略やネット空間での盗用まで視野に入れた技術戦争であり、
合法的には知財戦争でもある。

このような時代を迎え政府は、不正競争防止法(不競法)の改正を2018年5月23日に成立させ、新たな時代の知財の守りに備えた。

企業にとっては、様々なデータの取得と蓄積は重要な財産になり、その分析技術を発展させた成果を新たな競争力の源泉にしている。よく引き合いに出されるのがビッグデータの活用で売り上げを伸ばしているオンライン
小売業の成功例である。

たとえば回転寿司チェーン店で知られる「スシロー」の寿司皿には、ICタグがセットされている。レーンを流れている寿司の売り上げ状況だけではなく、鮮度の管理にも活用しているという。
どの店でどのような寿司ネタが売れているのか、テーブル客の注文内容なども瞬時に本部にデータ集約されている。こうしたデータは毎年10億件以上が蓄積されていると推測されている。

このデータを活用して需要予測し、レーンに流すネタの種類や量をコントロールして最適の寿司を顧客に提供することで売り上げを増加させ経営の効率化に役立てている。

今回の不競法の改正の狙いは、このような貴重なデータを安心・安全に取引し、利活用できる事業環境を整備し、知財や標準で使うビッグデータに対応した制度を導入することにあった。

経産省が示した改正の具合的なポイントは、①データの不正な取得・使用等に対する差止めを可能にしたこと、② 標準化の対象にデータ、サービス等を追加したこと、③ 認証を受けずにJISマークの表示を行った法人等に対する罰金刑を引上げたこと、④ 中小企業の特許料等を一律に半減したこと、⑤ 知財訴訟における証拠収集の強化をしたことなどである。

差し止め請求権の新たな措置
新規の改正事項の中でデータの「不正取得・使用等に対する民事措置」がある。これは、ID・パスワード等の管理をした上で提供されるデータの不正取得・使用等を新たに「不正競争行為」に位置づけたことである。
たとえば自動走行用地図データの不正取得や使用が例としてあげられる。不正取得や不正使用が生じた際には、これに対する差止請求権等の民事措置を設けたことで不正競争行為をブロックする体制をつくった。

「不正競争行為」の範囲の拡大としては、「技術的制限手段の効果を妨げる行為に対する規律の強化があげられている。
保護の対象の追加として、映像や音楽のコンテンツの視聴だけでなくデータ処理も加えた。
さらに効果を妨げる行為の追加としては、技術的制限手段の効果を妨げる装置の譲渡だけではなく、この際のサービスの提供などにも広げた。不正B-CASカードの提供がこれにあたる。ドメイン名の不正取得も不正競争にあたるとしている。経産省はその例として「電通」と類似する「dentsu.org」のドメイン名の取得がこれにあたるとしている。

電子データは複製することが簡単なので提供することも容易である。不正な流通が発生すると、被害は急速かつ広範囲に拡大するおそれがある。
価値のあるデータであっても、①特許法・著作権法の対象とはならない、または、②他者との共有を前提とし「営業秘密」には該当しない場合があり、その不正流通を差し止めることは困難だった。
たとえば、自動走行用地図データや、POS(point-of-sale =販売時点情報管理)システムで収集した商品ごとの売り上げデータなどが対象になる。

今回の改正では、悪質性の高いデータの不正取得・使用等を不正競争防止法に基づく「不正競 争行為」と位置づけることによって差止請求権等を設けて救済措置としている。

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