コラム

懲罰的賠償金支払い制度をしない日本

中国では5倍賠償制度を導入か
故意に侵害をした場合は、懲罰として罰金を高く支払うようにした制度が懲罰的賠償金支払制度である。日本ではキセル乗車をした場合は、規定の乗車金額の2倍の支払いを求めることが出来るが、これは法律で定めたものではなく旧国鉄が定めたルールであり、国民も認めていた。

知財の権利を侵害したケースでは、うっかりしたミスもあるが、故意に侵害しているものも少なくない。このような侵害事件の判決では、懲罰的賠償金支払いとしてアメリカでは損害金の3倍まで支払いを求める判決が許されており、それがいま中国、韓国でも確立されるようになった。
中国ではいま第4次専利法の改正の準備に入り、意見募集が始まっているが、その改正草案の第72条には、次のような条文案が示されている。

「専利権侵害の賠償金額は、権利者が権利侵害によって受けた実際の損失によって確定する。実際の損失の確定が難しい場合は、権利侵害者が権利侵害によって得た利益により確定することができる。
権利者の損失又は権利侵害者が得た利益の確定が難しい場合は、当該専利許諾使用料の倍数を参照して合理的に確定する。
故意に専利権を侵害し、情状が深刻である場合、上記方法で確定した金額の 1 倍以上、 5 倍以下で賠償金額を確定することができる」
なんと故意に侵害した場合は、損害賠償金額の5倍まで支払いを命ずることが出来るとする専利法が検討されているのである。

韓国でも制定された3倍賠償金制度
さる1月8日に韓国で公布された特許法、不正競争防止並びに営業秘密保護に関する法律では、故意に侵害した場合は、最大で損害額の3倍まで賠償責任を負わせる「懲罰的損害賠償制度」を制定した。
施行は、今年7月9日になる。

韓国で3倍賠償金支払いを認めた背景は、侵害行為による損害額の算定にあった。侵害裁判では、侵害者が取得した利益又は特許権の実施や営業秘密の使用によって通常受けることができる金額などを根拠とする実損算定がもとになって賠償金支払いの命令がされていた。
しかしこれだと、実際の損害金に届かないケースが多いとされ、侵害したほうが得するという評価になっていた。
これを侵害する側から見ると、侵害と確定されても権利者の実損分を支払えば済むことになり、うまくいけば実損以下で逃げ切ることが出来る。それなら故意であっても侵害した方が得をする。侵害のし得である。

この理屈は、そのまま日本でも当てはまり、日本では長いこと侵害のし得として懲罰的賠償金支払い制度を導入するべきという意見があった。
中国では商標権については、すでに懲罰的賠償金支払い制度が導入されている。中国商標法63条では、次のように定めている。

「悪意により商標権を侵害し、その情状が深刻な場合には、確定した金額の 1倍以上3倍以下の範囲で賠償額を確定することができる」(商標法63条)
専利法ではこの定めがないので、いきなり5倍賠償金制度を制定する草案になってきた。
ところが中国ではすでに特許侵害の訴訟判決で、3倍の懲罰的賠償金支払いを命じる判決が出ている。中国の裁判では、裁判官の裁量で法定の範囲内なら賠償金の支払いを命じる法定賠償制度がある。専利法65条には、次のような定めがある。

「権利者の損失、権利侵害者の取得した利益、特許使用許諾料を確定することがいずれも困難である場合、人民法院は特許権の種類、権利侵害行為の性質及び情状等の要素に基づき、1万元(約17万円)以上100万元(約1700万円) 以下の賠償を認定することができる」
中国の知財関係者によると、知的財産侵害は損害の立証が困難なので、訴訟の97%は法定賠償方式で損害賠償額を認定しているという。法定賠償金額の上限も現行の5倍以上に引き上げる案が検討されているようだ。

日本の大手企業は懲罰的賠償制度に大反対
米中韓がいずれも故意に侵害した悪質なケースには、懲罰的賠償金の支払いを認めているが、日本では大反対である。
たとえばこうした動きを制するように日本知的財産協会は、2017年5月2日に「懲罰的損害賠償制度の導入に強く反対する」との意見を表明している。
http://www.jipa.or.jp/jyohou_hasin/teigen_iken/17/170502_jipa.pdf

懲罰的賠償金支払いを命じられる企業(または個人)は、故意に侵害したと認定されるケースである。とすれば被害者になりかねない企業は、懲罰的賠償制度の制定を望んでいると考えるのが普通だが、大企業が会員になっている知財協は、そうではないようだ。

先の意見表明でも、強く反対する理由として次のように上げている。
「個々の特許の侵害に対する懲罰の議論よりも、特許権ある いは知的財産権の対象である技術が社会に提供している価値を如何に適正に当該技術の創出者に分配していくかが喫緊の重要な課題である」
権利を故意に侵害されて被害者になる恐れよりも、特許創出者にどう分配するかを考えることの方が重要だという意見である。それはそうかもしれないが、世の中正論だけでは通らないのではないだろうか。

懲罰的賠償金制度を取らない日本は、外国から見ると知財の権利を守ることに不熱心な国だと理解されかねない。日本の知財侵害賠償金は、米中に比べて低いことも印象を悪くしているようだ。

外国企業の中では、日本は知財の権利を正当に守ろうとしない国だから、特許出願もしない方針を出している企業もあるという。筆者も実際に韓国の特許事務所所長から、韓国のある大手企業は、日本に特許出願してもメリットがないとして出願を見送っているケースもあると聞いた。
懲罰的賠償金制度の導入の可否をもう一度論議することも必要ではないだろうか。

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