コラム

弁理士急増時代に期待される弁理士像

弁理士の分布状況を知ってびっくり

弁理士の数が急増している。日本弁理士会が公表している 2010年6月30日現在の状況によると、登録されている弁理士数は8715人である。このうち弁理士になって5年未満の人は全体の36%、人数にして 3144人であり、10年未満まで広げると、5277人となり全体の60%を超える。実に3分の2近くの5277人が、弁理士になって10年未満という若 い年代層になる。最近、弁理士試験に合格した人が急増している状況をよく反映している。

主たる事務所における弁理士人数は、1人事務所が 2494あり全体の67%である。実に3分の2が1人事務所である。これに2人事務所の531を加えると全体の81.5%になる。一方、弁理士数60人以 上の事務所は9事務所であり、全体の0.2%でしかない。改めて気がついたことだが、弁理士事務所はほぼ個人事務所として営業していることになる。弁理士 になったものの特許事務所への就職は難しいという声をよく聞くが、受け皿がこのような状況にあることを知ると、なるほどよく分かる。1人、2人の個人事務 所では、若い弁理士をトレーニングして戦力に育て上げる余裕はなかなか生まれない。

活動する地域も偏在している。表に見るように東京には5016人の弁理士がいる。全体の56%になる。大阪の1398人、16%と合わせると、東京・大阪だけで全体の74%の弁理士がいることになる。

弁理士の地域分布
1 東京 5016
2 大阪 1398
3 神奈川 604
4 愛知 428
5 兵庫 188
6 京都 173
7 千葉 144
8 埼玉 115
9 茨城 79
10 福岡 54

東京・大阪に偏在するのは、企業の本社機能が東京・大阪に集中しているからであり、知財や特許は本社マターであることを考えると必然的に偏在することになるのだろう。

 

弁理士業務の拡大と行政の弁理士登用はできないか

日本は、2002年の小泉内閣から知財立国を施 策の大きな柱にし、2003年からは毎年、知財推進計画を策定してきた。その中の1つに弁理士数の増加もあった。急増したのもこの施策目標を反映させたか らであり若い有能な人材が知財畑に参入することは大変いいことである。しかし弁理士になったものの現実はなかなか厳しい。一人前の弁理士になるには、それ 相応の経験を積まなければ無理である。

こうした現状から日本弁理士会では、平成22年度事業計画の中に弁理士が社会貢献するために弁理士の 業務拡大などを目指す事業に取り組むという。それは結構なことだが、筆者は国家的な取り組みを目指すことを提案している。国家的というとたいそうなものに 聞こえるが、具体的に言うと中央行政官庁や都道府県、政令都市、大学などの組織・機関が、弁理士を正規の職員として登用する制度の確立である。

企業には社内弁理士という人々が活躍している。企業の知財部などに所属するスタッフが、弁理士試験に合格しそのまま居ついているケースもあるが、合格者が企業に入社していくケースもある。合格した人でも大学新卒者などは、このケースが多いのではないか。

こうした状況を見ると、たとえば大きな都道府県には、弁理士が正規の職員としていてもいいし、経済産業省など中央行政官庁に正規の職員として弁理士がいたほうがいい。

行 政官庁も自治体も知財戦略を策定しているのが普通だし、大学には知財本部もある。弁理士資格のあるスタッフが正規の職員、スタッフになってしかるべきセク ションに常駐していることになれば、それなりの効果が期待できる。弁理士職員の待遇は、別途それなりの条件で整備すればいい。そのくらいの柔軟性がなけれ ば時代の速度について行けない。

そのためには弁理士のほうにも準備が必要だろう。中小・ベンチャー企業のコンサルティングのできる弁理士が 好まれるだろうし、中小企業診断士、税理士など他の士業との連携も必要になるだろう。行政に所属すると、知財啓発という役割も期待されるので、幅広い知財 知識や国際的な感覚が要求されるだろう。特許明細書を作成したり出願代理人という役割も重要であるが、業務拡大によって何でもできる弁理士という役割も必 要になってくる。

都道府県は域内の産業振興と結びつけた知財戦略を策定しているが、大体は外部の弁理士に顧問として委嘱している。正規の職 員として雇用している自治体はないようだ。都道府県の職員として弁理士がいれば、域内の中小・ベンチャー企業などの知財戦略の相談に乗ったり、地域団体商 標を活用するような知財戦略に直接関わってもらえる。委嘱された弁理士ではなく正規の職員弁理士となれば取り組み方も違うし、依頼したり相談にくる人々の 信頼感も違ってくる。

自治体は弁理士登用の道を広げ、知財立国のスタッフ充実に結び付けてほしい。また日本弁理士会も組織としてこのような業務拡大、スタッフ登用を働きかけ、支援策や弁理士の教育・講習などを推進してもらいたい。

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