コラム

度肝を抜かれた新手のビジネス?

先取り知財というビジネス

先ごろ中国で企業活動をしている日本企業の経営者から次のような「先取り知財」の話を聞いた。

日系企業を退社した元従業員が、勤務時代に習得した技術を知らないうちに中国の実用新案に登録した。中国の実用新案は無審査・登録制度であり、書式さえ整っていれば、短期間で登録できる。元社員は登録したことを根拠に「貴社の製品は私の実用新案権を侵害しているので話し合いをしたい」という「警告書」を日系企業に送ってきた。

元勤務して世話になった会社に対し、よくそんなことができるなと日本人は考えるがそれが中国流である。日系企業経営者は、こう分析する。中国人に倫理観がないわけではない。

戦前、日本軍が中国に侵略して中国人を痛めつけたから日本と日本人に対しては、相当なことをやっても許されるという意識を持っていると分析する。根は深いということだ。日本人の歴史認識の希薄さを思い起こさせるような話である。

中国でよく知られている先取り商標、先取り特許の手法は、もともとの開発者に内緒で先に権利を取得し、もともとの開発者に「警告」を発してあわよくばなにがしかの利益を得るという一種のビジネスである。

これを許さないと怒っても、制度を利用すれば合法的であり倫理観など度外視でビジネス展開ができる。似たような事例が日本でも発生している。

商標を大量に出願している企業と個人

今年の5月17日、特許庁がホームページで前例のないメッセージを発信した。

https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm

一部の出願人が他人の商標の先取りとなるような商標登録出願を大量に行っているためて、特許庁が注意を呼びかけたものだ。特許庁が商標出願人に関することでこのようなコメントを発信するのは異例である。

知財ラボ(http://jp-ip.com/ranking/1926)による2016年の公開商標公報出願人ランキングでは、次のようになっている。

1位:ベストライセンス株式会社(7458件)
2位:上田育弘(2661件)
3位:サンリオ(375件)
4位:資生堂(277件)

特許庁や日本弁理士会の関係者に聞いてみると、1位のベストライセンス社と上田育弘氏は同一の出願人と言われている。理由は、両者とも同一の住所になっているという。両者合わせて10119件であり、日本の商標出願件数のほぼ1割になっている。

特許庁によると、この大量出願のほとんどが「手数料支払いのない手続き上の瑕疵(かし)となっている」という。

商標登録に必要な手数料は、1件の出願に少なくとも1万2千円必要だという。1万件を超えると軽く1億円を超えるが、大量出願者はほとんど支払っていない。

これを支払わないと半年程度で出願が取り消される。ところがその間は、特許庁のサイトに「審査待ち」と掲載されるので非常に不安定な状況になる。つまり審査して登録されると権利が生じる。だから審査待ちとなるとその間、様子を見なければならない。

筆者の知人の弁理士に聞いたところ「出願しておけば、いわば権利の仮差押えと等しい状態になる。権利がほしいという人が出てくるのを待っているのかもしれない。出てくれば、その人に権利を譲渡してビジネスになるだろう」という。

このような商標出願が出ているのは、おそらく日本だけだろう。中国でも聞いたことがない。このような「手口」が輸出され制度が日本と同じ国なら同じ方法でビジネスを展開する人が出てくる可能性もある。

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