コラム

学校現場でも知財問題が浮上してきた

ネットでの情報発信が拡大している
全国の小中学校などで、Webを利用したインターネット上での情報発信が拡大している。
学校経営も企業経営と同じで、トップに立つ校長の裁量によって差が出てくる。
デジタル社会に消極的姿勢で生きてきた校長と、最新のネットツールと手段を取り入れている校長のいる学校では、
HPを見ればその差が分かる。

筆者は、学校給食と食育について研究している一人だが、現場で活躍する栄養教諭らの様子を見ていると、
近年、情報発信するレベルが急上昇してきていることを実感する。

食育授業では、ネットを利用して動画を導入するなど教育現場に
ICT(Information and Communication Technology)を活用する機運が高まってきた。
もちろん、個人の資質や好き嫌いもあるので一律にレベルアップとはいかないこともあり、
地域や学校間の温度差も相当に感じる。

「給食だより」に見る情報発信
栄養教諭とは、学校給食の献立を作成し、児童・生徒に食育を教える教員だが、
日常的に「給食だより」とか「食育だより」を発信している。
国民の間ではほとんど知られていないが、学校給食の献立は
文科省で通達している栄養摂取基準に従って
栄養士と教員の両方の資格のある栄養教諭が作成することになっている。

家庭や外食の食事内容と学校給食のそれとは、まるで世界が違うほど栄養内容が違っている。
家庭・外食では、エネルギー・脂肪・タンパク質・塩分が過剰になり、ビタミン・ミネラルが不足している。
エネルギー過多は、肥満から生活習慣病に結びつき、
塩分過多もまた高血圧、がんの発症との関係で警告を受けている。
ビタミン・ミネラルが不足すると粗暴になったり、
物事を深く考えないことにつながっていることを学術研究でも指摘されている。

ネットで紹介されている各地の「「給食だより」
https://www.google.com/search?sxsrf=APwXEddc74GSBAjYbs8Krwbb067qSQgqOg:1685232132605&q=%E7%B5%A6%E9%A3%9F%E3%81%A0%E3%82%88%E3%82%8A&tbm=isch&source=univ&fir=Mx1wJjvqpPPdIM%252CYEcWS_kThMUK2M%252C_%253BN9BGVAQVdmUC9M%252CzX0X2F7PsWg0AM%252C_%253BlZEEoVuegs1JYM%252CTmHvMPJxD6JdgM%252C_%253Bo_fixm4eXYdzqM%252CpSUQ4Lq4byxhUM%252C_%253BWjRcyVgzya2WYM%252Cri5G8Zz8odXU9M%252C_%253B2MiLMZjij01FVM%252CGTcWEVzDK3R5kM%252C_&usg=AI4_-kRl6UacFH1ApZvND_NqlLdnfdgORg&sa=X&ved=2ahUKEwi93oL12pb_AhWOUqQEHVBsA3MQjJkEegQIEBAC&biw=1920&bih=1049&dpr=1

学校給食では、エネルギー・脂肪・タンパク質・塩分を抑え、ビタミン・ミネラルを補充する献立を作るように、
国の摂取基準で決められている。その条件を満たす献立をつくると、通常は料理がまずくなる。
そうなれば、忖度などしない子どもたちが、まずい学校給食を残すことになり、
残食として問題になるがそうはなっていない。
献立内容と調理方法に工夫を入れ、おいしい学校給食を提供して、常に「完食」を目指しているからだ。

千葉県阿見町立学校給食センターの発信している「給食だより」
https://www.town.ami.lg.jp/cmsfiles/contents/0000008/8901/R5.5_dayori.pdf.pdf

野菜などの食材の切り方ひとつで、出来上がった料理がおいしくも、まずくもなる。
料理皿やどんぶりの彩りだけでも食欲がわいたり減退したりする。
そこまで考えて学校給食を作っている現場の苦労を国民はほとんど知らない。
その努力の様子は別物語になるのでここでは触れない。

そうした日常的な学校給食の有様を書いて発信しているのが「給食だより」「食育だより」である。
紙媒体が主体になっているが、近年は同時に学校のHPなどでも発信している。
また、印刷物にQRコードを入れ込んで、
スマホでも簡単にネットにジャンプするように工夫している発信も多くなってきた。

今回のテーマは、こうした情報発信の中で知的財産権に抵触しかねない状況を見ることがあり、
またこれを課題としてあげる人もでてきたので触れてみたい。

「著作物のデパート」になっている学校
法律家に言わせると、学校現場は著作権の山という。
創意工夫で展開する先生の授業は著作物であり、著作権を持つことになる。
児童・生徒の作文、お習字、お絵かき、工作物などは、著作権が生じており
「学校は著作物のデパート」という(神谷信行著「知って活かそう!著作権 書・音楽・学校の現場から」、日本評論社)。

授業で使用する場合の著作物の複製や著作権について、
「許諾不用」のケースとして神谷弁護士は著書で6つの要件をあげている。

1. コピーが許されるのは学校その他の教育機関(非営利)
2. コピーの主体は「教育を担当する者」および「授業を受ける者」
3.「授業の過程」での使用を目的とすること
4.コピーの範囲は、授業について「必要限度内」であること
5.コピーしてよいのは、「公表された著作物」であること
6.著作物の種類、用途、複製部数、複製態様にてらして、著作者の権利を「不当に害しない」こと

大半の場合、学校の授業として認められるので著作権の問題がないことが分かるが、
著作権法35条運用指針(教育関係者、有識者、権利者で構成する
「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」、https://forum.sartras.or.jp/info/005/)によると、
必ずしも授業と認められないケースとして次のような例があげられている。

・自主的なボランティア活動
・保護者会
・学校その他の教育施設で行われる自治会主催の講演会
・PTA主催の親子向け講座

このような場面で他人の書作物を利用する場合は、
権利者に対し資料の複製の許諾が出てくることがあるとする解釈である。
食育活動は、教育から離れて広く社会に訴えていく部分も多いだけに、
今後、権利者と利用者の間で摩擦が生じないように祈りたい。
「給食だより」などで取り上げている情報は、四季折々の地場産物のことや食の文化と歴史などがあるが、
時にはQRコードでネットの動画にジャンプする場合もある。
「著作権者の利益を不当に害すること」にはならないだろうと思っても、
権利者の許諾を必要とする場合も出てくるだろう。

食育授業での動画配信も拡大している
筆者らが主催者になって開催している全国学校給食甲子園というコンテストの中に食育授業コンテストがある。
これは5分間の持ち時間で行う食育授業のコンテストであり、毎回、白熱の競演が展開されている。

2022年の全国学校給食甲子園・食育授業コンテストで優秀賞を受賞した
埼玉県越生町立越生小学校小林洋介先生の授業の様子

5分間でその日の給食に出てきた料理について、
様々な知識や食材の栄養学、その日の料理の歴史・文化などについて分かり易く児童・生徒に解説するものだが、
5分間は思ったよりはるかに長く、競争する要素が多数ある。

コロナ禍で授業のやり方が変化してきたこともあり、この1,2年で急速にICTを利用した授業に変わってきた。
授業の間に動画を入れる技術も見かけるようになり、
受講する子どもたちにより興味を持たせるように工夫している様子が見える。

「給食だより」、「食育だより」を含めた学校のHP発信の質の変化は、年々上がってきており、
動画配信などはそのときどきの話題に触れる場合も出てくるだろう。
小中学校、高校などで知的財産を学ぶ機会につながるなら、
実例に即した年齢別の知財教育も必要ではないかと思う。

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