コラム

大企業の下請け知財いじめ 公取委の初の調査で知財横取りが明らかに

1万6000社からの回答を分析
日本の産業を下支えしてきたのは中小企業である。大企業の下請けをしてきた中小企業は、大企業の厳しい品質規格を守り、納期を守り、そしてコストダウンを迫られ、結果として優れた中小企業として世界にも知られるようになった。

しかしいま、中小企業が直面しているのは知財による下請けいじめである。現場が創意・工夫で開発した知財になる技術とノウハウが大企業に横取りされ、一部で大企業が勝手に特許出願までしている。そのような不満を多くの中小企業経営者から筆者も聞いてきた。

公正取引委員会は昨年秋から、中小企業を対象に知財の実態調査を行い、このほどその結果を発表した。その結果、中小企業の知財技術を大企業が不当に吸い上げている実態がわかった。

中小企業は資金力の不足から、特許出願になるような技術を開発しても知財の権利化は難しい。最近は、中国など海外へ出願しないと海外で容易に真似されてしまう。
そのような実態を踏まえて公取委は全国の中小企業3万社を対象に、知財をめぐる大企業と下請け企業の実態を調べたものだ。回答は対象社のほぼ半数の1万6000社からあったという。

設計図やデータを無償で提供迫る
回答内容から問題事例として730件の事例を引き出し、詳しく調べた。一番多い事例は「製品を納めるだけの契約だったのに、設計図やデータなど契約にない知財やノウハウを無償で提供させられた」というもので、約250件もあった。

筆者が取材したケースでも、納める製品の品質を調べるという名目で、製造現場まで大企業の技術者が多数常駐していた。中小企業の経営者は、どう見ても技術を盗みに来たとしか考えられないとして、筆者に相談がきた。
工程を調べるという大企業からの要請であり、設計図を提供させられただけでなく製造工程の現場を見たいとして10人ほどの技術者がPC持参で現場に入り込み、ノウハウまで見ていった。

その後、しばらく中小企業から製品を納品していたが、大企業の関連企業が同じような製品の製造を始めたとの情報が入り、数年後には契約期限がきたという理由で切られたという例であった。

公取委の調べで次に多かったのが、大企業と中小企業が共同で研究開発をするというのに、特許出願時になると、権利は大企業に帰属するという契約内容を強いられたものだった。これも中小企業の弱い立場に付け込んだもので、大企業の横暴ともいえるものだ。

また自社で開発してきた製造ノウハウを一方的に開示するように迫られた例もある。さらに中小企業が特許を出願する際には、大企業の許可を得なければ出願できない取引条件を強いられたケースである。
いずれも100件を超える事例があった。

中小企業にとって知財は命である
高度経済成長期には、大企業の売上高増加に乗って中小企業も売上高を伸ばし利益を確保できた。しかし製造技術が途上国にも広がり、韓国、台湾、中国が技術で追いついてきたため、21世紀に入ってからは、先進的な技術を開発しなければ競争力がなくなってきた。

これは大企業だけでなく、中小企業も同じである。資本力のない中小企業にとっては、むしろ技術力で勝負せざるを得なくなった。そのような時代背景を考えると、知財こそ中小企業の命になってきた。

ところで、大企業が中小企業いじめをするのは、知財だけではない。値引きを強要する、代金支払いを渋る、合理的な理由のない返品をする、無理な納期を求めてくるーなどこれまでも多くのいじめ態様が報告されてきた。

筆者は、長い間、中小企業の取材を続けてきたので、大企業の理不尽さと横暴さはよく聞いてきた。しかし大企業と言っても、個々の法人に人格があるわけではない。横暴さを突き詰めていくと、大企業の担当者に行きついていく。
つまり大企業の横暴さを追求すると中小企業と付き合っている部署の担当者に行き着くことになる。

これは組織の中で活動する個人(社員)の保身と功名心が、正義よりも勝っているという日本人固有の精神風土に根ざしているのではないか。
むろん、外国人にも組織で働く人間には保身と功名心はある。しかし日本企業の文化には、他人の開発した技術に尊敬の念を持ち、それを自社に導入して相当なる対価を支払うという思想がアメリカ企業よりも総じて薄いのは間違いない。

特許に対する価値判断も、特許に絶対的な価値を置くのではなく、ライバル社などとの相対的な関係で価値判断することが多く、独占、世界制覇という思想は希薄なような気がする。

日本でオープンイノベーションが拡大せず、個人発明家も生まれないのは、そのような企業文化とそれを後押しする知財紛争に対する司法判断があるからではないだろうか。

大企業が知財で中小企業、下請けいじめをする背景と根底には、このような日本の独特な精神文化があるというのが筆者の見解である。

Contact

まずはお気軽にお問合せください

受付時間:平日9:00〜17:00 03-5281-5511 03-5281-5511
お問い合わせフォーム