コラム

大丈夫か日本のフィンテック戦略

アリババが打ち出した「310」というスローガン
フィンテックの世界でいま、最先端を走っている中国・アリババグループの金融部門を担うアント・フィナンシャル・サービス・グループ(AFSG)は、「310」というスローガンを掲げている。
60年前にIBMがコンピュータプログラムで画期的なアセンブラー言語の「360」を世に出して旋風を巻き起こし、あっという間にコンピュータ業界の覇権を握り、世界を席巻したことを思い出した。「360」という名称のいわれは、360度まんべんなく対応できる性能を持つプログラミング言語という意味だった。

AFSG社は、アリババグループの中でも多様な金融ビジネスを展開しており、その技術と営業展開で世界トップと言ってもいいだろう。
「310」スローガンの意味は、いかにもフィンテック業界のトップ企業らしい意味があった。
最初の「3」は、ユーザーがインターネットから借入申請の手続きにかかる時間が3分ですという意味である。
2番目の「1」は、貸し出しの審査判断と送金にかかるコンピュータの処理時間が「1秒」という意味だ。
最後の「0」は、審査プロセスでの人間の介入はゼロであるという意味だという。

「310」は企業が運転資金を借り出す際にAFSG社が持っているシステムがスピーディに働いて時間をとらせませんということをアピールするものだ。ユーザー情報を瞬時に処理してAI(Artificial Intelligence、人工知能)に判断させて処理できることを誇示したものだった。

圧倒的な情報処理技術に発展
フィンテックとは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語の「FinTech(フィンテック)」であり、金融サービスと情報技術を結びつけた革新的な業務を言う。従来の銀行業務に先端のコンピュータ技術を融合させて、IT時代を先導する金融ビジネスである。

私たちの身近なところでは、スマホなどを使った送金が代表的な事例になるだろう。この言葉が出てきたのはアメリカであり、2000年に入ってから間もなく使われ出した。その後、インターネットの発展と平行してスマホ、AI、ビッグデータなどを活用したサービスを提供する革新的な金融ビジネスへと発展し、多くのベンチャー企業が生まれた。

アリババ・ジャパンのホームページから
https://coinpost.jp/?p=50434

例えば、企業の運転資金を充当するための資金の貸し手と借り手を直接つなぐこともできるし、Eコマースと結びついた決済サービスを提供する企業も出てきた。
インターネットの普及がほぼ完了した途上国では、スマホを利用した金融サービスが急速に広がっている。
日本は旧来型の銀行業務がまだ残っており、思ったほど発展していないとも聞くが、従来型ビジネスの延長線上でしかビジネス手法を考えられない日本は、一足飛びに最新技術とシステムを導入する途上国、新興国にあっという間に追い抜かれていくことのは当然である。

中国に抜かれていったのは、筆者の分析では、①教育制度、②政策実行、③技術開発意欲の3大要因にことごとく後手をとったからである。特に短期間で有為な人材を育てた大学と研究制度は、目を見張るものがあった。

金融ビジネスで最近、注目度が高いのは分散型台帳技術がある。これは複数の参加企業が同じ帳簿を共有することで分散型管理をする技術である。ブロックチェーン技術もその一つである。
アメリカのベンチャー企業で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)技術を巻き込んで急速に伸び来ている企業群が、続々と登場している。
このような先端技術が金融と結びついたのは、ユーザーのあらゆるデータを管理処理する技術が確立されてきたからだ。

データ駆動型金融の進展
従来の銀行業務は、顧客との対面取引が主体であり、多くの銀行はこのために地域の一等地に支店を構えていた。しかしインターネットの時代には、対面は必要なく、地理的制約はなくなった。時間的にも24時間対応できるシステムを組むことができるようになった。

たとえば金融ビジネスの場合、おカネの「借り/貸し」には与信審査が重要である。これまでの銀行は、貸し出しリスクを評価する際に、過去の貸し出し記録や取引履歴など過去データが有力な材料になっていた。
しかしいま、企業の情報は、リアルタイムで取引先や他社の評価、SNS関連のデータ、公的機関の公開情報など広く信用度の高い最新情報を集めたビッグデータがある。これをAIに分析させる技術システムが成熟してきた。

アリババのアリペイは、ユーザーの大量のデータを集約しており、特定の顧客の属性の識別、顧客の行動パターンなどを分析して、常に最新の情報と判断をもとに金融ビジネスを展開していると言われている。

中国がいち早く世界先端ビジネス手法を実現しているのは、規制が緩やかであることもあるかもしれない。日本は規制国家であり、金融ビジネスは特にカネが絡むために厳しい規制がはめ込まれている。
健全なビジネス世界を作るうえで健全な自由競争という考えは否定しないが、健全という言葉には、規制という概念が潜んでいる。技術が急速に発展している時代にあって、旧来の思考では追いつけないことがある。

学歴と人脈人事では技術革新に対応できない
アメリカで長い間、コンピュータ関連ビジネスをしてきた日本人営業マンに聞いたことがある。日本で今日、IT技術社会が遅れてしまった最大の原因は、「官庁の規制が邪魔したことにある」と断言する。そして官庁には「最新技術を理解している幹部がほとんどいない。技術革新が速いため、追いつけずに旧来の知識で判断しており、学歴と人脈だけを頼りに人事を動かしてきた報いが来ている」とも語っている。

技術に優れている人材を登用して責任を持たせる。そのような組織を作れてこなかった報いが日本の後進性に拍車をかけている。
さらに官庁の責任の仕組みがまったくできていないこともある。ITシステムの開発は、専門業者に委託することがほとんどだが、その業者選択と運用は技術の分からない人物がすることが多く、失敗すると業者に責任をかぶせる。その繰り返しできている。

民間企業が遅れたのは、官庁が遅れているからであり、官上民下の日本社会では手本は官庁が示すという文化がある。あるいは行政指導の名で、業界の改革にハッパを掛けるのが官庁の役割と思っている企業人がまだいる。フィンテックで世界の流れについていけない日本の病根はここにある。

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