地域イノベーション戦略支援プログラムを検証する その1
写真と図はいずれも文部科学省提供
知的クラスター創生事業の成果について
地域社会の活性化を目指す国のプロジェクトの中でも文部科学省が平成14年度から展開してきた2つの事業を検証してみたい。
この事業とは、「知的クラスター創生事業」と「都市エリア産学官連携促進事業」である。さらに平成23年度から新たに「地域イノベーション戦略支援プログラム」を開始している。
先行した2つの事業では全国各地で90を超える地域に支援をしており平成25年度まで継続する予定である。
この欄では、2回に分けてこれらの事業を検証し、知的社会に組み替えていく日本全体の取り組みを見てみたい。知的財産権をいかに活用するべきか。また知的財産権に関与する人材をどう育成し確保するべきか。この2つのテーマが大きな課題となって浮かび上がってきている。
知的クラスター創生事業の取り組みと成果
文部科学省がこれまでに発表している平成14年度から22年度までの9年間での成果を調べて見ると次のようになる。
* 特許出願件数 国内 2779件 海外 537件
* 事業化件数(試作品、商品化、ベンチャー起業など) 1975件
* 論文数 国内3283件 海外 7268件
* 参加機関数、人数(平成22年度のみ) 914機関、2976人
* 成果が他の事業に採択された件数 511件
* 本事業による関連収入 約458億円
この数字をどのように評価するかは難しいことである。変革に対応する踊り場にあるとしてやや甘い点をつけることは可能だが、対応が遅すぎるという評価もあるだろう。
特許の出願の中でも海外への出願が少なすぎるし本事業による関連収入も少なすぎると言えるかもしれない。事業に取り組んでいるプロジェクトの中から日本を代表する産業が2つ3つと生まれれば次世代の日本の産業も見捨てたものではないということになる。
全国のプロジェクトの中から文部科学省の期待が大きいいくつかのプロジェクトを検証してみたい。
福岡先端システムLSI開発クラスター
世界をリードする先端システムLSIの開発拠点を目指しているもので、福岡県を本部に九州大、九州工大、北九州市立大、福岡大、早大などのほかに多くの企業が参画した産官学連携プロジェクトである。
これまでに蓄積されてきた同地域のシステムLSI開発基盤技術を生かしながら、地域の自動車、バイオ、ロボット産業などを背景に、組込みソフトウェアな どの基盤技術分野や車載半導体をはじめとしたアプリケーション分野などで先端システムLSIの研究開発を行う。これにともなって必要となってくる組込みソ フトウェア技術者の養成にも積極的に取り組み人材育成体制を強化するとしている。
基本事業としては、研究開発と人材育成を2本柱としている。研究開発では、システムLSIの基盤技術分野(組込みソフトウェア、情報通信)、アプリ ケーション技術分野(自動車、バイオ、ロボット)そしてLSI実装技術等分野(実装、設計、先端材料)の研究とこれら重点戦略分野における先端システム LSIの研究開発を行う。
さらに人材育成では、システムLSIのキーテクノロジーである組込みソフトウェア技術者養成に重点的に取り組み、新たな人材育成体制を構築するとしている。
この地域はアジア諸国・地域と地理的に近い関係にあるので、特に広域化プログラムを重視している。国際・広域展開促進チームを結成し、アジア諸国な ど海外から数多くの研究者等を招聘して地域内での国際共同研究の実施や相互の直接投資の促進、世界最先端の情報交換などを実施することによって、国際的な リーダーシップや優位性を確保したいという。
シリコンシーベルト福岡構想(SSB構想)
世界の半導体生産の一大拠点であるアジア地域(韓国、九州、上海、台湾、香港、シンガポールなどを結ぶ半導体生産のベルト地帯「シリコンシーベルト」)におけるシステムLSI開発の拠点化を目指すことを構想している。
文部科学省報告から紹介するこれまでの主な成果
(1)LSI積層実装用バンプの製品化
コンプライアント・バンプ電極と呼ばれている円錐形の電極を用いて、積層チップの間を多数のInput/Output(入出力)で接続する技術を開発した。積層時にはバンプの先鋭部が柔軟に潰れるため、低温・低ストレス・高密度でチップを密着させることが可能となった。
コンプライアント・バンプ電極
またバンプの直径は、5~35μmの間で自由に設計できる。これにより、高機能・低電力システムLSIの実現が期待される。参画企業であるサン・エレクトロニクス㈱により商品化が実現し、現在デバイスメーカーにサンプル出荷され実装テストが行われている。
(2)返品薬仕分け装置の製品化
カメラによる画像認識技術とロボット制御による自動仕分け技術を活用した、高速・高精度な完全自動処理システムを実現した。医療機関において医師がオーダーしたが使用されなかった返品薬の仕分けを自動化する製品を開発したものである。
取り揃えから返品までを完全自動化することが可能となったもので、薬剤師は返品薬をトレーに入れるだけで良く、手間が省けミスを皆無にできる。また、薬剤師が仕分けにかける時間を服用指導に当てることで、よりレベルの高い医療が実現できるという。
返品薬仕分け装置
このほかにも成果をあげている事業として文部科学省では、3つのプロジェクトをあげている。その中の長野県のプロジェクトを紹介する。
長野県全域地域のナノテク・デバイスクラスター
長野県地域は精密加工技術で先端を走っている企業が多数ある。カーボン・有機・無機のナノ材料、ナノ構造制御技術開発、界面制御技術などに強い企業が多く、信州大学の研究スタッフも加わってナノ材料及びその使用法の高度化について研究開発を行う。
そこで生まれた成果は、すぐに地元の精密加工技術を得意とする県内地場産業に反映できる。また海外の研究機関、企業を巻き込んだ幅広いネットワーク を構築することで、先進的な新製品の開発・商品化・事業化を進め、世界的に優位なスマートデバイス・スーパーモジュール供給クラスターの形成を目指してい る。