コラム

地域イノベーション戦略支援プログラムを検証する その2

写真と図はいずれも文部科学省提供

前回に続いて文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラムの各地の成果について、文部科学省提供の資料などをもとに紹介する。

誰もが感じることだが、地方に行くとかつての活況がなくなり、あの熱気はどこへ行ったのだろうかと思うことが少なくない。少子高齢化社会は地方の地域か ら大きな影響を受けている。老齢化した日本の生産現場の改革をしなければ将来の日本はない。そのような危機感から文部科学省の施策も次世代イノベーション を起こす起爆剤の種まきをしているものだ。

この中からいくつかの事例を紹介したい。

富山・石川地域

医薬の研究開発では伝統的な強みを誇っている地域であり、産学官連携基盤をベースにライフサイエンス分野の大学などの知識基盤とものづくり産業における技術を融合させ、国際的に競争力のあるライフサイエンス研究開発拠点の構築を目指している。

これまでに抗体開発技術などの技術移転、高速AFM(原子間力顕微鏡)装置の商品化のほか、FDD-MB株式会社(出生前診断)、株式会社TOPU バイオ研究所(ヒト代謝物安全検討技術等)、NPO法人富山のくすし(天然化合物ライブラリーの提供)の設立などを行ってきた。

富山県立大学の浅野研究グループは、血液中のアミノ酸を酵素反応によって測定するための酵素チップ及び電気化学的測定装置を開発し、複数のアミノ酸を同時に計測することで、様々な疾病を診断するためのシステムの試作を行っている。

金沢工業大学の上原研究グループは、超伝導量子干渉デバイス(SQUID)を用い、脊髄の神経活動に伴う微弱な磁場を検出し、脊髄の機能を調べることのできる脊髄機能イメージング装置を開発した。

従来、脊髄の機能は、脊柱管に硬膜外カテーテル電極を挿入して調べるしかなく、非侵襲的な方法の開発が待たれていた。既に東京医科歯科大学で試作機による試験を行い、有用性を確認済みで、早期の製品化を目指して開発を進めている。

富山・石川両県ともに、(財)富山県新世紀産業機構、(財)石川県産業創出支援機構を核として連携体制の整備、産学官連携のコーディネートやネットワーク形成などに取り組んでいる。

富山・石川地域の地域イノベーション新興の展望図

東海広域

東海地域は、世界有数のレベルの高いものづくり企業が集合しており、その強みと名古屋大学、名古屋工業大学、岐阜大学などの大学の研究拠点、さらに愛知県産業技術研究所なども加わった産学官の連携プロジェクトが積極的に各種テーマに取り組んでいる。

大気圧プラズマの開発では、電子密度が従来技術の数千倍の超高 密度大気圧プラズマの発生技術を開発し、企業が製品化した。また、金型、機械装置部 品などの鋼材の表面硬化処理において、電子ビームで生成させた高濃度の窒素原子により、平滑な表面を維持しつつ硬化させることが可能な「アトム窒化処理技 術」を中核技術とする大学発ベンチャーを設立した。

さらにこの事業で開発した超高密度窒素ラジカルソースを用い、サファイヤ基板の上に結晶性に優れたGaN(窒化ガリウム)薄膜を従来の約3倍の速度で成長させることに成功した。これにより、目に優しく、高輝度な白色LEDの実現が期待できるという。

参加している企業と共同開発した大口径GaN用MOCVD装置(半導体薄膜形成装置)の製造販売を開始した。この装置は、6インチのシリコン基板の 上にGaNの薄膜結晶を形成させることができ、低コストで高効率なパワーデバイスの実現による省エネルギー、CO2削減効果に大きな期待が寄せられてい る。

ふくしま地域

東日本大震災による原発被害で大きなダメージを受けた福島県地域だが、「ふくしま次世代医療産業集積クラスター」の確立を目指して、医療機器設計・製造ハブ(集積)拠点形成の実現に取り組んでいる。

それを達成する戦略として、「県民・患者の視点に立ち医療ニーズを踏まえた研究開発」、「既存産業の高度化と地域経済の活性化(事業化支援)」、 「プロジェクトを担う人材育成」、「情報発信と世界展開」の下に事業を展開し、福島県内全域に「医療機器設計・製造産業」の集積を進め、特色ある地域の発 展を実現していく。

将来的には(10年後)、全国の大学等研究機関、医療機器産業界からの研究試作、部材供給、量産(OEM生産を含む)に応じることのできる世界に誇れる「医療機器設計・製造」ハブ拠点を目指すとしている。

函館地域

函館地域は、縄文時代から海の恵みを受けて発展してきた。水産・海洋に関する高度な産業が発展し、高いポテンシャルを持つ関連学術・試験研究機関が 集積している。この特性を生かし、水産・海洋に関する国際的な学術研究拠点都市の形成を目指した「函館国際水産・海洋都市構想」の実現を目指している。

周辺の豊かな海を計測・予測可能な巨大な生産システムと捉え、未利用海洋資源の探索や海洋生物由来有価物の持続的生産に必要なキーテクノロジーを総 合的に研究開発すると共に、その成果としての生産物の高品質、高付加価値を科学的に実証し「函館ブランド」としてグローバルに展開するクラスターを形成す るという。

函館の周辺海域にのみ生育し、未利用資源であったガゴメ昆布の機能性に着目した研究成果から多くの商品が生まれ、その機能性を最大限に引き出すバイオファーミング(テーラーメード的生産)の発展と共に新たな製品群も増加した。

現在、製品は約170品目、累計売り上げ約50億円を達成している。地域企業と本州大手企業による機能性食品素材の製品化に向けて取り組みを進めている。

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