卓越大学院が育てる人材に期待
卓越大学院が育てる人材に期待
コロナウイルス感染者の爆発的な世界拡大で、社会活動が大きく停滞する影響を受けている。中国・湖北省の武漢市が発生源とされているが、1000万都市の武漢市は徹底的な封鎖作戦が功を奏して、ついに封じ込めたようだ。しかしウイルスはまだ世界中に蔓延しており終息する気配がない。
卓越大学院の狙い
こうした社会的な停滞ムードの中で、今年度から文部科学省で始めた卓越大学院プログラムがスタートを切った。これは学部を卒業して大学院に進級して博士課程まで修了する予定の学生を、5年間の一貫教育で優れた人材を育成するためのプログラムである。
修士2年、博士3年という過程を5年一貫で教育するのが特長だ。全国の29大学、44件が応募されたが、9大学、11件が採用されてスタートを切る。
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/08/__icsFiles/afieldfile/2019/09/06/1420053_001.pdf
文部科学省によると、「世界の学術研究を牽引する研究者」、「イノベーションをリードする企業人」、「新たな知の社会実装を主導する起業家」、「国内外のパブリックセクターで政策立案をリードする人材」等のそれぞれのセクターを牽引する卓越した博士人材を育成するとともに、人材育成・交流及び新たな共同研究が持続的に展開される拠点を創出し、大学院全体の改革を推進することを目的とするとしている。
東京農工大の卓越大学院プログラムの新産業創出の概念図
ずいぶん欲張った人材育成だが、そう簡単にはいかないだろう。と言ってもやらなければ何もできないのだから、大いに外から支援していきたい。
このような人材育成が必要になったのは、高度・専門の研究進展が早く、学問的な進歩が速いだけではなく、研究成果の知的財産としての取り込みと構築の必要性、さらにそれをビジネスで展開する能力が必要になってきたからである。
簡潔に言えば、次の3点セットを備えた人材の養成となる。
1.技術の内容を深く理解できる能力
2.研究成果を知的財産として確立する能力
3.ビジネスを展開できる能力
一人でこれだけの能力を備えた人は、スーパーマンになり、5年間の一環教育で育てようというのは無理だろう。ただ、その基本を備えた人材育成をして世に出し、いずれスーパーマンとして国際的に活躍できる人材に育ってほしいという狙いは間違っていない。
従来、こうした人材は20年かかってやっとそれなりの人材に育ってきたというのが実情だ。しかし、潮目の早い現代では20年かけるのでは間に合わない。そこで教育方針から変えて時代の潮流に合わせようとした大学院プログラムであろう。
知財戦略が分かる人材がカギ
筆者がよく相談を受けるのは、知的財産を活用した企業経営をどのように展開するかという相談である。技術は優れている。特許出願、登録などの知財戦略でもそれなりに企業の財力に合わせて行っている。問題は企業戦略である。
技術は分かる。知財も分かる。しかしビジネスを切り盛りできる人材はそう簡単にはいない。その中でも知財を武器にしてビジネス展開できる人は、ある程度の経験を積まない限り出てこない。
技術が成熟した分野であればそれなりの難しさがあり、先端技術の場合も進歩の速度と知財囲い込みという難しさがある。中小企業になれば、財力との兼ね合いも出てくる。
そうした社会的な課題にどう対応するのか。文部科学省に採択された11件のプログラムを見ると、どの大学も期待を抱かせるプログラムを用意している。
何よりもどの大学も連携先機関として10から20機関をあげている。
内外の大学と先端企業群がほとんどだ。まず海外の大学との連携、研修、さらに企業との連携と研修という内容だ。
具体的にプログラムが進んでくれば、このコーナーで随時報告していきたい。