医心
「医心」という言葉は、私はこの話を聞くまでは知りませんでしたが、広辞苑を見ると医術の心得とあります。
「医骨」として同じような医術の秘訣とか、医道の心得という言葉も載っています。
「医の心」という言葉も同じような意味を持つものでしょう。東京女子医大に1949年に教授として赴任された
榊原仟(しげる)先生が書かれた書物「医の心」の中に、昔から名医といわれている人は患者の精神的な
悩みを解決すると言われたそうです。
「小医は病を癒せず、中医は病を癒して人を治せず、大医は病を癒し、人を治す」という言葉があるそうで、
医療の知識に加え医の心を学ぶことが大切だと言われています。
大学の医学部、薬学部を目指す人向けの予備校が盛んだそうで、全国に展開されている予備校に
「医の心」医心養成ゼミで、医学部、医学研究者の素養を高校時代に体感するという触れ込みの
徹底指導予備校が登場しています。
今回ご紹介する話は、こうしたゼミの内容の説明が、商標の使用になるかということが争われた事件です。
医学や薬学の知識の教授や指導、イベント、ホームページを利用して生徒募集して医学知識を教授、
電子出版物を提供するなどの役務を指定した商標があります。
「医の心」(登録商標第5587659号)2013年6月7日登録、
「医心」(商標登録第5858642号)2015年10月23日登録です。
これらの権利が医療関係者を目指す学習やゼミナールを告知するパンフレットやウエブサイトに
医の心や医心を養う講座だとする説明やキャッチフレーズが書かれていたことを巡り裁判になりました。
商標法では、26条に商標権の権利が及ばない範囲が規定されています。その中に「需要者が何人かの
業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」という
規定があります。説明的、記述的な表示や書籍などの題号があります。
今回の事件では、これらの「医心」や「医の心」の表現は、記述的または説明的な記載で、商標の使用に
当たらないとされたのです。
それにしてもすでに広辞苑などの辞書に載っているような言葉、本のタイトルとして出願前から世の中に
存在していたモノが登録になったこと自体が疑問でもあります。
今回の事件には直接関係していませんが、「イシン」という商標が、2014年11月28日に登録になっています。
登録商標第5721038号で、この商標の指定商品が電子出版物の制作、印刷物及び雑誌の制作、人材派遣、
スポーツまたは知識の教授、シンポジウムの企画運営など、医療分野とは言っていませんが、先の「医心」と
受け取り方によっては重複する役務が含まれています。ほとんど同じ時期なので気になります。
友人の弁理士に言わせると、最近は電話などの音声による伝達が少なくなり、称呼よりも外観の違いが
重視される傾向が明らかだとされていました。