勿体ない
アベノミクスの影響でしょうか、このところ、上場企業の一株当たりの利益が顕著に増加しているようです。
世の中の変化への対応が、企業の中でも間に合わないくらいのスピードで進んでいるようで、旧態依然のところもあり、温度差は今後も進むのではないでしょうか?
こんな中で、ある企業では変わらないことの一つが、発明が決まった時期に多く出ることです。忙しい仕事が継続しているため止むを得ない面もあるとは思うの ですが、毎年3月に数千件の発明が生まれるという現象はここ10年以上も続いています。昔から、期の変わり目に集中する傾向がなくはなかったのですが、年 間の40%近くが3月ひと月に集中するというのです。この傾向は実は日本全体でもいえるようで、特許庁の統計を見ていても、毎年3月の出願が他の月の平均 より50~60%も多いのです。
小学校時代の夏休みや冬休みの宿題を、休みの終了間近になって行うのと似ているのでしょうか? 日々の仕事に追われ、集中して発明をまとめる作業ができな いため、期末になって、何とか出願依頼をまとめる気持ちも分かります。もっとも、期末になってでも出願依頼が出されるだけ、発明や特許に対する意識が強い ことは評価に値します。何しろ、発明をしても忙しいためか優先順位的に低いのか、発明を顕在化しないで済ませてしまう人もなくはないのですから・・・
しかし、こうして3月に寄せられる出願依頼には、通常の月に提出される発明に比較して勿体ないなと思われるものが目につきます。すべての出願依頼を見てい るわけではないので、性急な結論を出すことはできないことなのですが、確実にこうした勿体ないものが多く含まれています。その中の一つが、課題は書かれて いるのだけれど、解決手段が弱体な発明です。「必要は発明の母」と、古くからいわれています。まさに人が気がつかない問題に気づき、課題を発見することは 素晴らしい発明への第一歩です。課題がまったく新しければ、解決手段はたいしたことでなくとも、世の中になかったということで特許になりえます。誰でも考 えつくような手段でも、始めに気づいた人の特許になってしまうからです。ところが、解決手段がいっぱいあるようなものでは、一つの手段だけを抑えるだけで は完全な権利を取ったことになりません。こうした解決手段が弱体か、あまり書いてない発明が結構あるのです。
こんな発明は、解決すべき課題を他社に教えるだけに、終わってしまうかも知れないのです。それこそ勿体ないことです。期末に集中するため、時間が取れな かったのかも知れませんが、一枚か二枚の紙にちょこちょこと書いたに過ぎない発明もあります。発明は技術の思想ですから、思想を説明するためには色々な方 便(実施例)を記載することも必要なのです。自分が考えたアイデアを基に、他の人ならどうするか、この発明を権利化したら、他社ならどう逃げるかなどを考 えて実施例に加えることは常識です。この基本的な常識を時間がないだけの理由で、折角の発明を技術的な思想まで昇華させずにおいてしまうなんて、あぁ勿体 ないなと思うのは私だけでしょうか。