凍結含浸法
広島に知人を訪ねた際に、教えてもらった広島県発のユニークな技術の話です。
名付けて凍結含浸法。これは今後の高齢者社会での大きな基本技術なのです。
私の母も高齢者で介護施設のお世話になっています。ある時介護食のあり方を教えて頂き、どのような食事を提供しているかを試食する体験の機会がありました。
そこで一番最初に説明があったのが、水やスープ、みそ汁などが歳をとると呑みこみにくくなるという話です。加齢により筋肉の動きが衰えてしまうなどの理由で、嚥下障害となり呑みこむことが難しくなるというのです。
流動食などというモノは、あまりかまなくても呑みこめるので良いと思っていたが、水が呑みこめないで喉につかえるとか、むせてしまうという説明なのです。そうした場合にはとろみをつけるため、ゼリー状にする必要があるというのです。確かに水でむせてしまう事や咳をすることがたまにあるので、そのようなことかと納得したのです。
出された介護食は軟かく煮えており食べやすいので、美味しく頂きましたが、同じ食材でもそれぞれの人に合わせ、細かく切ったり、場合によるとミキサーで粉々にしてペースト状のモノを食べてもらう事もあるという説明で、食事を作っている方の苦労が良く分り感謝しながら施設を後にしたのです。家に帰ってから食事の様子を母親に聞いたが、未だやわらかめのもので、特に切り刻んだものは今のところ出されないとのことで、家でも、むせたりすることがあったら注意しなくてはならないと思ったのです。
嚥下障害が進むとペースト状の食事になり、食欲も進まないで苦労するとのお話があったのですが、こうしたペースト状にしないでも様々な食材がそのままで食卓にのり、食べるときは、柔らかく嚥下障害があっても呑みこめるという夢のような技術が2002年に開発されたのです。
タケノコにレンコン、ゴボウやニンジンなど比較的しっかり噛ないと呑みにくかったり、消化不良になる様な食材でも、丸ごとそのまま食卓に上がって、箸やホーク、スプーンでも簡単につぶれるほど柔らかく出来る優れた技術が開発されたのです。
これが凍結含浸法です。生や加熱した植物食品材を凍結した後、解凍し酵素の液体の中に漬け、減圧すると細胞同士の隙間の空気が抜けて酵素が一気に沁み込むという原理です。広島県の県立食品工業技術センターが開発した手法です。特許第3686912号「植物組織への酵素急速導入法」として登録されています。
柔らかくなるまで煮つけたり、時間を掛けて加熱する必要がないため、食材の本来の栄養素や風味や色が保たれるというのです。美味しい食事は見た目も大切ですので、夢の介護食と言っても過言ではないのです。「食のバリアフリーを実現」というキャッチフレーズで、多くの介護食業者、レトルト食品、冷凍食品業者に実施許諾され、本格的な実用化がなされ、市場にも供給されているとのことです。
広島名物の、もみじまんじゅうのような食感で、多くの食品が食べられるようにしたいとの思いで、開発されたとの話もある広島県のユニークな発明です。