コラム

中小企業の知財戦略を考える(中)

中小企業の知財活動の地域格差
産業財産権の特許・実用新案・意匠・商標の中小企業の出願動向を都道府県別に調べた
特許庁データを見てみる。

特許では、中小企業の中で特許出願した割合は、2018年で全国平均が0.32%である。この平均を上回っているのは東京、大阪、愛知、京都、神奈川、福井である。福井を除くといずれも工場群を抱えた大都市圏であるが、なぜ、福井がこの中に入ってくるのか。

実用新案登録での全国平均0.04%を上回る都道府県でも、大都市圏を除くと福井、新潟、埼玉、兵庫、愛媛、岐阜、大分が入り、ここでも福井県の存在は揺るがない。意匠登録でも福井県が入っている。商標登録ではさすがに、東京、大阪、京都だけであり、一極集中の様相である。

福井県の中小企業はなぜ、知財活動が活発なのか。福井県の教育関係者に聞いたところ、伝統的にオンリーワン企業が多く、和紙、陶磁器、塗り物などの伝統工芸が優れており、創意工夫が時代を超えて継承されてきたという。工業製造の現場でも、このような創意工夫の伝統が根付ており、知的財産権を獲得する地域風土につながっていったのではないかという解説だった。

中小企業の海外展開
中小企業の海外展開はどうなっているのか。モノ作りの現場では、かつて日本が優位に立っていた職人技の
技術・技能がIT化によって機械にとってかわられてから、優位性が崩れていった。

このため、技術で優位に立つためには、特許権を諸外国でも確立して独占的な地位を築くか、他の企業に特許ライセンスをしてロイヤルティ収益をあげることが重視されている。

2018年の中小企業のPCT国際出願件数は、合計で4379件だった。直近5年間の推移をみると、グラフで見るように年を追って増加してきており、この増加傾向がどこまで続くか注目されている。
内国人出願で見ると、中小企業の出願件数の比率は9.1%だった。

これを商標登録件数でみたのが次のグラフである。
これはマドリッド協定議定書に基づく商標の国際出願だが、これも増加傾向にあり
特に2018年はぐんと増えている。

次に中小企業の海外への特許出願率は次のグラフで見ることができる。
海外出願率とは、「(優先権請求件数)÷(国内出願+PCT直接出願)」を指している。
大企業が毎年伸ばしているのに比べ、中小企業は直近5年間では横ばいで推移している。

費用の高額が横ばいの最大の原因
なぜ、中小企業の海外への特許出願比率が横ばいで推移しているのか。その原因は、費用の高額化があることは間違いなさそうだ。

特許庁の調べによると、中小企業が海外出願を断念した経験の有無を調べた結果を見ると、断念した中小企業は54%あり、断念したことはなかったという44%を上回っていた。

断念した理由を問うと、89%の中小企業が「外国出願に要する費用が高額であるため」をあげている。

知財侵害リスクと隣り合わせで国際活動を展開
特許庁で作成した「中小企業向け海外知財訴訟リスク対策マニュアル」などから、次の状況が浮かび上がってきている。

中小企業は人材、資金、情報が大企業に比べて決定的に不足しているので知財リスクへの対策も不十分となり、知財係争や訴訟に巻き込まれることが少なくない。

たとえば、特許庁が日本企業を対象とした模倣品被害のアンケート調査を見ると、被害企業のうち半数以上の57%が中小企業だった。国・地域別の加害国は、中国・韓国・台湾となっている。

こうした背景から海外進出を目指す中小企業は、海外で知財権利を確立しないと、侵害リスクと隣同士で活動を強いられることになる。そのために高い費用をかけて知財権利を取得するのかそれとも断念すのか。特許庁の調べによると、その選択を迫られると多くの場合は、外国出願の費用が高額であるため断念したとする中小企業が約90%とされている。

その裏付けになるデータとして海外展開における知財活動の課題のトップは、「外国出願に要する費用が高額である」とした中小企業が84%あった。

中小企業の出願助成制度
こうした現状に対応して、政府と地方自治体は中小企業向けに様々な知財助成制度を設置している。

特許庁、JETROを始め、東京都や地方自治体も助成制度を設置し、海外への特許出願を奨励している。個々の助成制度の内容については、ネットでも見ることができるので、ここでは割愛する。

JETRO、東京都ともに、限度額を300万円までとしているが、申請手続きが煩雑であるかどうかによって、
使い勝手がいいかどうか評価が分かれている。

東京都知的財産総合センター:https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/index.html
JETRO知的財産保護:https://www.jetro.go.jp/themetop/ip/

こうした助成制度が拡充することはいいことだが、中国の助成制度を見るとまだ日本は見劣りするようだ。
次回は中国の中小企業知財制度について触れてみたい。

つづく

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