コラム

中小企業の知財戦略を考える(下)

米中に差を付けられている日本の中小企業知財戦略
日本の中小企業が優れた技術力を発揮してきたことは、諸外国でも認められてきた。特に中国では、日本の中小企業の力量は、過度と思えるほど高く評価していた。
ところが下記のグラフを見ていただけると分かるが、日米中の中小企業の特許出願割合を見ると、米中にかなり劣っていることが明らかになった。技術力はあるが、独創的な技術開発では米中ほどではないということになる。
出願件数を概略で示すと日本4万件、米国15万件、中国100万件となり、中国は日本の25倍の出願件数になる。

この原因を類推すると、日本の中小企業は、大企業の下請け企業が多く、技術開発に力を入れなくても大企業の高い技術力の影響を受けて、自身も高い技術レベルに引きあげることができた。独自に技術開発しても大企業の庇護にあるため自社で出願することをためらい、独自の知財として権利化することはほとんどできなかった。
仮に権利化しても活用する道が開けなかった。

さらに、中小企業が大企業に知財を侵害されている事例が多いことは、この欄でも検証して紹介した。
「潮流」(No.108)
「大企業の下請け知財いじめ 公取委の初の調査で知財横取りが明らかに」
https://www.hatsumei.co.jp/column/index.php?a=column_detail&id=310
2019年の公取の調査から730件の知財侵害の事例を分析し、大企業が下請け企業から知財を侵害している実態を報告した。

特許出願・審査費用の減免制度の比較すると
元特許庁長官で知財評論家として活動している荒井寿光氏(写真)から、中小企業の知財活動について取材したので、その見解も入れながら日本の中小企業の知財の問題点について考察してみたい。

まず、日米中の中小企業の特許出願と審査費用の減免制度を比較したのが次の表である。
荒井氏によると「米国は伝統的にベンチャー企業や中小企業を支援しており、中小企業支援のため、small entity(小規模法人) 制度を設け、簡便な方式で、中小企業の特許料金半減制度を実現してきた」という。
最近も、米国 は「Small Business Innovation Protection Act」を制定(2018年10月9日成立)するなど、議会の関心も高いと見ている。

法律の概要を解説すると、中小企業庁(Small Business Administration)および 米国特許商標庁(USPTO) に対し、米国内および米国外での特許権の取得に関する中小企業向けの研修プログラムを共同開発することを要求。さらに中小企業開発センター(Small Business Development Center)において、米国内および米国外での特許権の取得に関する研修を提供することを要求しているという。

特許庁の資料などから作成

減免額を比較すると日本は米国より少額である。中国は特許庁の手数料が日本より安く、減免後の中小企業の負担額も日本より低い。さらに、知財権利に対する融資制度は、中国の方が手厚いことが分かる。2018年4月24日の中国知識産権局長の記者会見よると中国の状況は、次のようになる。(1元=16円で試算)

これに対し日本の知財ビジネス評価による融資額は2014年から18年までの累計で44億円、年平均にすると約9億円である。
荒井氏は、「中国は、特許、商標、著作権を取得した中小企業は、それだけでやる気のある中小企業と位置づけ、知財を担保に大幅な融資をしているのではないか。中央政府は、知的財産運用基金を設立して、地方政府の知財担保融資を後押ししている。その結果、中国では多くのベンチャーが生まれ、中国全土の中小企業が強くなってきているのではないか」との見解を述べている。筆者が交流している中国の知財関係者も、ほぼ同じ見解を述べている。

日本で知財融資制度を活用するためには、信用保証協会に「特許担保枠」の設置を行い日本政策金融公庫(日本公庫)に「知財融資制度」を創設することも一つの方法ではないかとの提案を荒井氏はしている。中小企業の市場化支援・販路開拓施策に、知財の活用を組み込むことで、販路開拓、新事業創出支援などに結びつくのではないかとの考えだ。

日本が米中に遅れた原因は何か
荒井氏は、日本が米中に比べて中小企業知財支援策が遅れた原因として、次のように分析している

①中小企業支援策は充実してきているが、実際の経済効果は小さい。
②研修や講演会、窓口相談など間接的な施策が多く、「啓発普及」にとどまっている。
③知財融資もビジネス評価の策定支援なども直接施策ではなく間接的である。

2019年になって特許庁はようやく米国並みの特許料金一律半減制度を導入した。荒井氏は「画期的な思想転換の始まり」であると評価している。
さらに荒井氏は、これからの中小企業支援策の原則として次の視点をあげている。
第1 中小企業庁と特許庁がコラボする。
第2 直接的な支援策を導入し、中国に見劣りしない施策を実施ずる。
第3 中小企業の知財活動は様々なレベルにあるので、それぞれのレベルに合わせたきめ細かい支援策を考えるべきとして、次のようにレベル分けした知財と企業活動を示している。

 

抜本的施策の提言
それでは、中小企業支援策の強化として具体的にどのような施策をあげることができるか。まず技術開発では、特許取得費用を中小企業向け技術開発予算・補助金・税制の対象にすることがあげられる。荒井氏はその例として、ものづくり補助金、戦略的基盤技術高度化、技術基盤強化を対象にした助成制度をあげている。
特許・商標の出願・取得については、特許や商標権を取得したことがない知財未利用企業は、まず出願経験をすることが大事だと指摘している。こうした未利用企業も自ら出願体験をすることで、いずれ弁理士に依頼するようになるだろう。

中国では、2000年ころから知財の重要性を全土で展開してきた。知財立国への大号令と共に全土で講習会を展開していた。筆者はその当時に何回か講習会の会場を見る機会があったが、北京ではどこも超満員であり、講習会で使われるテキストには、多くの日本企業の名前が出ており、日本の知財取り組みがモデルとしてあげられていた。20年前、中国の「お手本」は日本企業であり日本の知財制度だったのである。

海外進出のための知財戦略に知恵を出せないか
筆者は、中国に進出したものの技術侵害でひどい目にあった中小企業を取材してきたが、その体験から、次のような考えを巡らすことがある。それは、日本国内での中小企業活動は限度があり、今こそ海外へに出ていく時代ではないかという思いだ。
そのため知的財産権を海外で確立するのは、費用、人材の面で中小企業には限度がある。そこで、海外展開する中小企業をビジネスとしてバックアップする企業・団体・組織が出てこないかという期待である。成功した場合は、あらかじめ定めたロイヤルティ相当分を利益として提供するという考えである。

公的機関としてはジェトロがあるが、利益団体ではないので限度がある。リスクをとっても利益を出すことを目的にした組織・団体・企業が出てくるためには、当初、どうしても公的な支援が必要だが、最初だけにしないとまた補助金狙いで終わる危険がある。

国内の中小企業の知財支援策と同様に、海外に出ていく中小企業への支援策として出願経費だけではなく、実際の企業活動で支援できる仕組みを国は民間団体と一緒になって創り上げる知恵が必要ではないか。

たとえば、中国の場合は、中国の大学やその周辺に広がっている公的サイエンスパークなどの組織と提携した日本の中小企業との活動である。中国の単独企業でなく、組織との提携によって侵害からのリスクを緩和できる。なぜなら、中国は急速に知財侵害に対する厳罰施策が広がっており、先進的な知財意識が定着してきた大学やサイエンスパークでは、日本とほぼ同じ意識で話し合うことが可能だからだ。

そのように時代を先取りする仕組みを考えなければ、いつまでたっても米中の後塵を拝する国家に成り下がっているのではないか。
これからは日本の中小企業の個別の知財戦略と海外展開について取り上げてみたい。その中に将来展望が見えてくるのではないかと考えているからだ。

このシリーズはおわり

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