中小企業の知財戦略を考える(上)
業歴100年企業が3万3千以上で世界一
日本は創業時から100年以上続く老舗企業数は、世界の国々の中でも断トツであり世界一である。
帝国データバンクは 2018 年 11 月時点の企業概要データベース「COSMOS2」(約 147 万社収録)に収録されている老舗企業(個人経営、特殊法人等含む)を分析した結果は、非常に興味深い。
file:///C:/Users/babar/Desktop/p190101.pdf
同社の分析によると2019 年中に業歴 100 年以上となる老舗企業数は、日本には 3 万 3259 社あるという。
日本の企業の全体に占める老舗企業の割合は、 2.27%だった。
これを業種別に見ると、最も多いのは製造業の 8344 社(25.1%)、次いで小売業が7782 社(同 23.4%)、卸売業が7359 社(同 22.1%)となっている。農作業で営々と国家の形を創り上げてきた日本独自の文化が、近代的な産業構造にも受け継がれ、今日の「もの作り国家」としてこの数字にも表れているのだろう。
年商規模別を見ると1億円未満(41.5%)、1 億~10億円未満(同 39.0%)で、売上10億円未満の企業が80.5%で、いわゆる中小企業がほとんどである。都道府県別に見ると老舗企業が最も多かったのは、日本の歴史的な首都として長い間継承されていた京都府で、全体の 4.73% だった。
1000年以上の業績はどうか
一方、東京商工リサーチの調査によると、業歴が1000年以上続いている企業は、2017年現在で7社あるという。旅館業が4社、木造建築工事業、華道茶道教授業、宗教用具製造業が各1社という。
日本で200年以上の歴史をもつ企業は3,000軒を超え、アジアでは中国9軒、インド3軒、韓国ナシとなっている。ヨーロッパでは、ドイツ800軒、オランダ200軒であり、日本は世界の中でもずば抜けた「老舗大国」としている。中国の「世界最大の漢方薬メーカー」である北京同仁堂は、創業340年であり、中国茶、書道用具など100年以上の老舗が数軒ある程度だとしている。
時代を乗り越えるノウハウで生き残る
世界的に見ても日本だけなぜ多いのか。日本人は創意工夫に優れた民族ということをよく聞くが、それと無関係ではなさそうだ。農業から工業へと時代の変化、社会構造の変化に順応する操業のワザを継承することに優れていたからだろう。
長寿企業に共通することは、後継者を早くから育てていることが挙げられている。製造業にとっては、後継者と同時に技術の継承でありノウハウの維持とより優れた技術への進化がなければ生き残ることはできない。
戦後の高度経済時代を支えたのは、中小企業と大企業の協働体だった。たとえば東京都大田区の金型工場地域に行くと、小さな数人規模の町工場がひしめいていたが、仕事場で広げられている金型図面は、ほとんどが大企業からの発注図面だった。
下請け企業の典型だったが、2000年前後に急速に台湾・韓国・中国へと仕事が取られ、中小の金型工場はあっという間に衰退していった。数十年かけて腕を磨いた職人の技術が、技術革新によって先端金型機械に内蔵されてしまい、マシニングセンターなどに技術が吸収されたためでもあった。
デジタルもの作りの進展であったが、これからはITもの作りからIoT(Internet of Things)、そしてAI(Artificial Intelligence)もの作り時代へと進化して未来につながっていく。
1990年代の後半、産業構造の近代化を見抜いたインクス創業者の山田眞次郎氏は「情報工業化」という言葉を発信していた。工業現場のツールが情報によって置き換えられ、しかも情報量と質によって優劣が決まることを見抜いた概念と言葉だった。
世界は、アメリカのGAFA(グーグル=アルファベット社・アマゾン・フェイスブック・アップル)に代表されるIT企業に制覇されており、クラウド時代を迎えて産業現場の価値はモノから情報へとシフトしてきている。
この先、日本の長寿企業は、どのようにして生き残っていくのか。実は大企業の動向にもつがなる行方であると筆者は睨んでいる。工業国家として生き延びる日本にとって、険しい道筋を予想しないわけにはいかない。
手作業によるノウハウ、特異な職人ワザが発揮する企業は残るだろうが、製造技術による進化・生き残りは容易ではないだろう。
生き残るための手段は知財戦略にあることは間違いないだろう。そこで中小企業の知財動向を探ってみることにした。
日本の産業を支えた町工場
中小企業企業の各種知財動向
2014年から18年までの直近5年間の中小企業企業の知財動向を見るために、特許・実用新案・意匠・商標の出願動向を調べてみた。資料の出典はいずれも特許庁の資料からである。
この4つの動向を見て気になるのは、特許・意匠・商標がいずれも2017年をピークにした山を作っていることだ。実用新案出願だけが、下降線を辿っているが、これは予想されたことでもある。
次回は、国際的な動向も見ながら中小企業の知財動向とその先に見える日本の知財動向を検証してみたい。
つづく