コラム

中国の科学技術力と知的財産権 その5

急増する中国の特許出願数だが
2008年に中国が「国家知的財産戦略要綱」を発表して、研究開発に注力して近代的な産業立国へと宣言してから2013年で5年になる。この5年間で中国は専利(特許、実用新案、意匠)出願数が爆発的に増え、いずれも世界で出願数のトップになった。

国内出願人による出願が急速に増加してきており、2013年の1年間の特許、実用新案、意匠の出願件数の合計が205万件を突破した。今後も年間 15パーセントの増加率で増えることが予想されており、2015年には,特許、実用新案、意匠の出願件数の合計が250万件になるだろう。特許は75万 件、意匠は85件、実用新案は90万件前後になると予想する。

2012年の特許出願件数は53万5,313件、実用新案出願件数は73万4,437件で、依然として実用新案出願件数の比率が高い。ファウエイ (華為)、ハイアール(海璽)など世界で存在感を出す企業も出てきたが、技術開発のスピードが速く競争が激しい通信、自動車、次世代エネルギー産業などの 分野ではまだ核心的な発明がでていない。まだ外国企業に対し、多額の特許使用料を支払う状況にある。

グラフは国内出願人及び外国出願人による出願動向( 2005年~2012年 )
2013年12月1日に開催された日本知財学会で、北京銘硯国際特許事務所の日本代表者である朴木理華さんは、「中国の知財戦略は、いま量から質への転換期にある」として様々なデータを使って現状を報告した。この発表は、筆者も共同研究者となっている。

いま中国では、スマートフォンが2億台売れており、世界中で利用されている多くのスマートフォンが中国で生産されている。しかし朴木さんによると「1台に販売価額の5~6%の特許使用料を外国企業に支払う状況にあり、ほとんど利益が出ない生産を続けている」としている。

中国の権利維持率が低い
中国では特許、実用新案、意匠などの出願に対して様々な助成・奨励制度があり、その施策もあって中国出願人の出願件数が急増していることは、このシ リーズでも報告してきた。出願数は急増し、登録件数も急増しているが、権利維持率はどうなっているのか。朴木さんの学会での発表によると「外国権利者に比 べてあまり高くない」としている。

たとえば特許権については、出願から7年および10年経過した時点で消滅している割合は、外国権利者についてはそれぞれ28%、57%なのに対し、中国権利者は57%、90%になっている。

また、実用新案権については、出願から3年および5年経過した時点で消滅している割合は、外国権利者についてはそれぞれ19%、51%なのに対し、中国権利者は54%、82%になっている。

さらに意匠権については、出願から3年および5年経過した時点で消滅している割合は、外国権利者についてはそれぞれ15%、46%なのに対し、中国権利者は68%、91%になっていると報告している。

中国の権利者の維持率が低いことは何を意味するか。朴木さんは「基本特許の比率が低く、自社で登録した特許網を活用するという面では、いまのところ 外国権利者に一日の長があり、特許権の質においては中国が特許大国といえるようになるまでにはまだ少し時間がかかる」と語っている。

中国の企業活動を見ると、3段階に分けられる。ごく一部の企業は、技術開発でも営業活動でも世界トップクラスの実力がある。これがトップ集団であ る。次の階層が二番手技術で勝負する企業集団である。安い人件費を活用しながら外国の技術と資本を活用しながら技術開発に取り組むという集団だ。

一番下の階層は、いまだ途上国レベル、意識から脱していない集団である。ここが圧倒的に多い。したがって中国の権利維持率と言っても全体の平均値を見ると低いが、トップ集団の特許戦略は、先進国のそれとほとんど変わりはない。

大学や個人の権利者が多い中国の特許権利者
朴木さんと筆者らの知財学会での発表をもとに話を続けたい。
2012年の中国の国内特許登録件数は、約14万4000件だった。そのうち大学からの特許登録件数は、約3万4000件であり23.6%だった。

直近のデータでみると、2013年7月までの中国国内特許権数は約53万3000件あるが、そのうち大学が所有する特許権が10万9000件で20%を占めている。しかし、大学の特許権が実施されるのは5%以下だといわれており、また平均寿命が3年だと指摘されている。

いずれも中国・国家知的財産局が発表した「中国有効専利年度報告」によるものだ。これによると、2012年に国内で維持されている専利権(特許・実 用新案・意匠)の件数は約300万件であり、そのうち特許が47万3000件、2012年末まで中国国内企業が有している専利件数は約181万2000件 となっている。

ざっと60%が企業、40%が大学など企業ではない権利者が保有していることになる。これは日本の事情とは大違いである。

中国で特許の権利者が10年以上維持しているのは約5.5%でしかない。これを世界平均でみると26.1%になっている。また外国人権利者が中国で特許権を10年以上維持しているのが約10万5000件であり、中国人権利者の4倍になっている。

朴木さんは「この数字から見ても、中国は戦略なき特許出願であり、核心技術の特許権がないことが伺える」と発表している。

日本企業への助言
このように中国での特許出願者、権利者の40パーセントは、大学、個人などであり、世界の中でも異質の構造になっている。大学・個人と言っても中国 の知財関係者に言わせると「正体が見えない権利者が多い」としており、「紛争が起きた場合の対応はリスクが大きく対応策が難しい」と語っている。

中国での年間の知財関係の訴訟件数は、日本のほぼ10倍に達しており、訴訟王国と言われるアメリカの知財訴訟の2倍にものぼっている。中国人は権利意識が強く、権利者は話し合いに応じなければ訴訟に持ち込むことに抵抗がないようだ。

知財訴訟の多くは中国人同士、企業であるが、地方の裁判所では弁護士など代理人に依頼しないで当事者が訴えるケースも多いと聞く。

さらに最近の傾向は、日系企業など外国資本の企業で技術を習得し、それをもとに特許や実用新案を出願するケースが増えているようだ。研究開発段階の技術を習得した中国人が、会社を辞めて先にその技術を出願することもある。

中国の実用新案は、出願してすぐに登録となり権利が発生するから訴訟になって闘う場合は費用も時間もかかり大きな負担になる。そうしたリスクも考えておかないと、中国での企業活動は安心してできないことになる。

このシリーズは、この5回をもって終了します。

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