コラム

中国の科学技術力と知的財産権 その4

日本の3倍の速度で進展していく中国の技術開発

1990年代後半から中国の科学技術力が急速にあがってきた。特に2000年以降の技術開発は猛烈な勢いで先進国を追い始めた。当初は外国からの技術移入に主眼が置かれていたが、中国政府の「自主創新」政策に乗って、自前で技術を開発する方向へ切り替えてきた。

モノ作りの技術基盤がIT化されたために、過去の技術や人材の蓄積がなくても、先端の領域にいきなり入り込むことが可能になってきたからだ。IT化 とは、感単に言えばCAD、CAM、CAEに代表されるバーチャルエンジアリングの普及である。コンピューターと高度な工作機械を連動させて、この道30 年の熟練職人がいなくても精密な金型を製造することも可能になってしまった。

ITの普及で世界は距離感がなくなり時間差がなくなったことが、途上国にとっては追い風となった。情報が容易に入手できるので、途上国にとっては先 進国と同じスタート台に立つことができるようになった。かつて日本がモノ作りで蓄積してきた期間が、いまは3分の1程度に短縮されたと言っても間違いでは ないだろう。

このような世界の動きの中で中国政府は、2008年6月、「国家知的財産権戦略綱要(綱要)を打ち出し、知的財産権の創造・活用・保護・管理の能力 を向上させる施策を推進してきた。その中でも中国の知的財産の出願、取得に拍車をかけたのが、特許出願の助成・奨励政策である。

中国国内の地方政府は、綱要を受けて特許出願の助成・奨励に関する制度を制定し、特許を積極的に出願するように企業にはっぱをかけてきた。上海に進 出した日本企業の経営者は「日本に特許を出願するとカネを取られるが、中国で出願するとカネをもらえる」と端的に語っている。「特許を出願して儲ける」と いう話さえ出てきた。

北京市には「北京市特許出願助成金管理暫定弁法」が、上海市では「上海市特許助成弁法」があり、助成制度が施行されている。このような制度は中国全体の地方政府が制定しているものであり、知財大国を目指す国ぐるみの制度となっている。

このような助成制度が普及すると、企業や大学の中には「出願のための出願」に走り出すところが出てきた。その風潮が中国の特許出願に拍車をかけることにつながった。

たとえば北京市、上海市の場合、特許出願に関する費用を「市」と「区」の両方から取得することができる。制度を利用すれば、出願人はほとんど出願費用を負担することなく特許を出願できることになる。

さらに中国では「ハイテク企業認定管理弁法」という制度があり、ハイテク企業と認定された場合、税制面の優遇措置を受けることができる。知財大国を目指した二重三重の優遇措置である。

権利意識が強い中国人に知財はぴったり

このように突然のように知財に目覚めた中国について、中国人弁理士は「技術の進歩・産業の発展に伴い、分野によっては技術的に先進国に追いつき、先進国に負けないレベルまで達しているものもある。そうなると自然に知財に目覚めると思う」と言う。

またその弁理士は次のようなたとえ話をしている。

「ホームレスは、財産がないので泥棒を恐れない。しかし財産を持てば持つほど、人は盗まれる心配が増えていく。技術も財産だから、この財産がたまってくると盗まれる心配をするようになった。技術力がなかった時代は、盗まれる心配はなく、もっぱら盗む側に回っていた。

ところが自主開発が進んで技術を持つようになったら、他人に取られないように、しっかりと守ろうという意識が強くなってきた。中国人は特に権利意識が強いので、知的財産に対する意識も当然強くなる」

PCT(国際出願制度)出願動向から分析する

特許協力条約(PCT : Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願の動向を見ると、最近、中国企業が目覚ましく台頭してきている。世界知的所有権機関 (WIPO)がまとめた2012年のPCT出願件数のランキングを見ると、首位になったのは中国の通信機器大手、中興通訊(ちゅうこうつうじん、中国語読 み:ジョンシントンシュン、英語表記:ZTE Corporation)だった。4位には中国の通信機器大手、華為技術が入った。

順位 企業名 国籍 出願数
1 中興通訊 中国 3906
2 パナソニック 日本 2951
3 シャープ 日本 2001
4 華為技術 中国 1801
5 ロバート・ボシュ ドイツ 1775
6 トヨタ自動車 日本 1652
7 クアルコム アメリカ 1305
8 シーメンス ドイツ 1272
9 フィリップス オランダ 1230
10 エリクソン スウェーデン 1197
11 LG電子 韓国 1094
12 三菱電機 日本 1042
13 日本電気 日本 999
14 富士フィルム 日本 891
15 日立製作所 日本 745
16 サムスン電子 韓国 683
17 富士通 日本 671
18 ノキア フィンランド 670
19 BASF ドイツ 644
20 インテル アメリカ 640

 

中興通訊(ZTE)の知財戦略を分析する

ジェトロなどの調べによると中興通訊は、1985年に設立された携帯端末などの通信設備の開発、製造、販売企業である。本社は広東省深?市にあり、従業員は5万人という巨大企業に成長しているが、研究開発担当者は社員の35パーセントを占めている。

顧客は世界の135か国に広がり、通信企業など500社と提携関係を保持しているという。2007年の売上は340億元(約3兆4000億円)だったのが013年には842億元(約8兆5千億円)まで伸ばしている。

同社がPCTに出願している特許案件のテーマ別の出願件数を見ると、「データ交換ネットワーク」が約25パーセント、「グループ1/00から27 /00の単一のグループに包含されない配置、装置、回路または方式」が約17パーセント、「加入者が無線リンクまたは誘導無線リンクを経て接続されている ところの洗濯通信」が約15パーセントであった。

中興通訊の共同出願人をみると、中国の大学・研究機関と中国企業とがほぼ半数ずつで分け合っている。

主要共同出願大学では、北京郵電大学が突出して多く、電子技術大学、西安電子科技大学、浙江大学などが続いている。企業では、中国移動通信集団公司、南京中興軟件有限責任公司、北京中電華大電子設計有限責任公司などである。

これまで同社が中国特許として出願した総数は、27932件であり2007年以降に急増して華為を逆転している。出願案件でも特許が圧倒的に多く、 実用新案はわずか6パーセント弱である。PCT出願は、2009年から急激に増加している。これらの出願は、中国での国内出願に基づく優先権を主張してい るものがほとんどだ。

これからも中興通訊の特許の国際出願が増えていくだろうというのは中国に知財関係者の観測である。

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