中国の産学研イノベーション戦略
「中国の大学とともに切り拓くグローバルなイノベーションの時代」をテーマに「第3回日中大学フェア&フォーラム」が、9月27日(木)、28日(金)に、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催される。日中の大学を中心に企業、研究機関などの関係者が集う最大のイベントである。
100以上の中国と日本の大学が展示やセミナーを行う「フェア」と、日中の大学、産業界を代表するリーダーたちが講演とパネルディスカッションを展開する「フォーラム」の2部構成で開催される。
今年は、日中国交正常化40周年であり、日中交流の大きな節目を迎えている。しかし先ごろ起きた尖閣諸島の問題をめぐって日中間が緊迫しており、中国から代表団が来日してくれるかどうかまだ未確定な部分もある。
フェア&フォーラムは、パネルディスカッション、セミナーなど盛りだくさんだが、今回の特長を見ると産学連携をテーマにしたパネルやセミナーが多い。産学連携に関するテーマだけを拾い出してみると次のようなものがある。
「産学官で考える世界のエネルギー問題」
「中国での産学連携・企業における知的財産戦略」
「国際産学連携の事例紹介」
「日中の大学における産学連携と国際展開」
筆者はこの中の「中国での産学連携・企業における知的財産戦略」というテーマのセミナーでモデレーターを務める。
登壇者は次のような人たちである。
・特許庁特許審査第一部審査長 谷山稔男氏
・株式会社ワコム法務・知的財産部ジェネラルマネージャー 秋田信行氏
・北京銘碩国際特許事務所所長 韓明星氏
このセミナーでは産学連携の実務的な話題を出しながら課題を話し合い、さらに中国で活動する日本企業の知財戦略についても意見交換し、フロアとの討論を行う予定である。
筆者は日本企業の中国での活動の中で、このコラムで取り上げた中国雲南省で発生し、いまなお水面下で調査が進んでいるコピー工場事件の「知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判事例」を報告する予定である。
この不祥事を多くの中国人識者にも知ってもらい、日中共通の課題として今後の対応策を考えたいと思う。すでに中国人の知財関係者からも多くのコメントをもらっている。
ところで、今回のフェア&フォーラムでなぜ産学連携がにわかにクロースアップされてきたのか。それは時代と共にこのテーマが大きな潮流になってきたからである。
日本では「産学官連携」という言葉が使われるが中国では「産学研合作」と記述している。中国で言う「研」は研究機関であり大学である。元々は政府が一段高い位置から主導しているのであえて「官」は入れないのだろう。
中国での産学研連携の主なパターンは6つに分けて考えられている。
第1が重大な技術的な課題に対して共同で取り組むパターンである。これは国家と企業が研究開発で取り組む場合のテーマが、エネルギー、環境、生命科学などきわめて重要なテーマに取り組む場合である。
第2が共同でハイテク産業開発区などを建設してハイテク企業を設立するパターンである。これは、大学や研究機関が技術を提供し、企業が資金を提供してハイテク企業を創設し、社会に役立てようとする事例である。
市場のニーズに応える運営をすれば成功するケースが増える。企業人を経営陣に据え、研究開発は研究者に任せるパターンである。このような企業が集積する エリアは「国家大学サイエンスパーク」と呼ばれ、中国全土に国家ハイテク産業開発区は約60 カ所、国家大学サイエンスパークは約80 カ所もある。
中国へ行くとあっちでもこっちでもサイエンスパークがあるが、その中のどのくらいが成功しているのかよく分かっていない。
第3が、共同で研究開発のプラットフォームを構築するパターンである。これは企業と大学と研究機関が共同で実験室、事業研究センター、企業技術センター、研究院などを創設するものある。
たとえば大学では基礎的な研究開発プラットフォームを置き、企業には製品技術開発に重点を置くプラットフォームを創設する。
第4が、共同で新型人材を育成するパターンである。イノベーション型起業家の育成に重点を置いている。大学が企業からの依頼を受けて技術型や管理型 の人材を育成するプロジェクト、博士号を取った人材が正式に就職する前に一定期間大学や研究機関に所属し、科学技術研究を行う形態である。
第5が、大学と特定地域とが共同で取り組むパターンである。「産学研」を大学、研究機関と地域や省との連携へと発展させようというパターンである。 例えば、教育部(日本的に言えば教育省)、科学技術部(同科学技術省)、広東省政府が共同で行った大学と広東省企業の連携である。多様な成果を出してお り、2009 年現在、100 以上の有名大学が広東省のさまざまな企業との連携を進めている。
第6が、産業技術イノベーション戦略連盟を発足するパターンである。この連盟は、産業技術のイノベーション力の向上を目標とし、法的拘束力のある加盟契約で企業、大学、研究機関、ユーザなどで構築された一種の戦略共同体である。
こうした中国の産学連携施策はダイナミックに展開されていることは、中国の多くの報告書や指導者らの発言で分かるのだが、中国での産学研連携の統計やまとまった報告はほとんどない。
僅かに日本の大手企業との連携を展開しているケースがいくつか知られており、その中から中国の東北工学院(のちの中国の東北大学)と日本のアルパイン株式会社との例を中国総合研究センターの報告書などをもとに紹介してみたい。
瀋陽に本社がある東方軟件公司(会長・劉積任・東北大学副学長)は、1991 年に東北大学の前身・東北工学院を母体として発足した。現在は中国でトップのシステム開発企業であり世界有数のソフト企業に成長した。
そのきっかけとなったのは、1988 年、アルプス電気の関連企業であるカーナビゲーションなどの開発企業であるアルパイン株式会社の当時の沓澤虔太郎社長が、中国の東北地方を視察したときで ある。瀋陽市に立ち寄り、東北大学の前身である東北工学院を訪問した。そのとき沓沢社長は、同大学のソフトフェア開発能力の高さに驚き、共同で事業活動に 乗り出すために1991 年、同大学とアルパインで合弁会社「東工アルパインソフトウェア研究所」を設立した。
同大学の研究室の一部を利用してスタートしたものであり、研究開発と企業活動はIT時代の時流に乗って瞬く間に成長し、中国 IT 業界で最大手 ソフト開発企業へと成長した。もちろん、中国の若い優秀な人材が多数いたこと、それをうまく開花させた指導者がいたからできたことである。
今ではアメリカ、ロシア、イタリア、ブラジル、中近東、ヨーロッパなど世界60か国・地域で2000社以上の大手顧客を持ち、世界中に2万人以上の社員を抱える企業に成長した。
中国初のデーターベースである Openbase など40種以上のソフトを開発しており、専門のスタッフが顧客の要望に応じてシステムの設計を行ったり、ハードウェア、ソフトウェア、通信回線、サポート 人員などを組み合わせたシステムを提供するなど各種ソリューション、プラットフォームの構築などで活動を広げている。
当初の資本金は25 万米ドル(約2000 万円)で、そのうち10%はアルパイン社側の出資だった。その後、同社の事業規模は急速に拡大し、1996 年には600 万米ドル(約5億円)まで増資し、中国のソフトウェア企業としては初めて、また日中合弁企業としても初めて上海証券市場へ上場した。
同社は母体である東北大学から修士課程の学生を毎年80人前後社員として受け入れており、会長の劉積任氏がいまも同大学の教授を兼務している。また日本にも進出してNEC とソフトウェア関連の合弁会社も設立している。
このように成功した事例はまだ少ないが、これからも日中の産学連携から世界に羽ばたく企業が続々と生まれることを期待したい。
日中大学フェア&フォーラムのセミナーでは、こうした成功事例や失敗事例なども検討し、日中の新しい時代を切り開く戦略を模索することになるだろう。
第2回日中大学フェア&フォーラムのシンポジウム(2011年10月11日、東京・サンケイホールで)
第2回日中大学フェア&フォーラム開会式のテープカット
第3回 日中大学フェア&フォーラム ―中国の大学とともに切り拓くグローバルなイノベーションの時代― |
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開催概要
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