コラム

レシピ・料理と知的財産権(上)

美味しい料理に特許などの知的財産権は及ぶのだろうか。料理を作るレシピには著作権があるのだろうか。
このような疑問をふと感じさせるコンテストがあります。
筆者が代表を務める認定NPO法人21世紀構想研究会主催の全国学校給食甲子園の献立内容です。
17年前の2006年から始めた学校給食のコンテストが毎年、大きな関心を広げています。
日本で一番おいしい学校給食を競う大会ですから、
子どもと保護者、生産者、教育関係者も巻き込んだ熱気あふれる大会になっています。

決勝大会に残った地域代表の学校給食レシピは、素晴らしい内容であり、
食べたらどれもこれも美味しくて差がつけられない。
このレシピは著作権の対象になるのではないかと思わずにいられないほどです。
今年の締めくくりにあたり2回にわたってレシピ・料理と知的財産権について話を進めてみます。

応募者1249人の頂点に立ったのは兵庫県代表
今年の17回全国学校給食甲子園大会の決勝戦は12月11日に女子栄養大学で開催されました。
北海道・東北から九州。沖縄まで6ブロック代表とプラス1の7代表が
実際に同大の調理場で学校給食を1時間で調理し、その出来栄えを競う大会です。

全国の1249人の学校栄養士(栄養教諭、学校栄養職員)が
学校給食の献立(レシピ)とそれに関連する食育授業の内容を応募し、4回の書類審査で7代表まで絞り込まれ、
最後にこの7代表が実際に調理し、出来上がった学校給食の食味審査を受けて
優勝・準優勝、特別賞などを決める大会です。

学校栄養士・調理員の2人一組で調理
全国には1万2000人の学校栄養士がいます。
学校給食はこの学校栄養士の作成した献立以外は認められていません。
理由は子どもの健康と成長のための学校給食栄養摂取基準が文科省の法令で決まっており、
その基準通りの献立を作って提供するからです。

簡単に言うと、家庭・外食ではとりすぎになるカロリー、脂肪、タンパク質、塩分を抑え、
不足しがちのビタミン、ミネラルを増加する献立を作るように義務化されているからです。
学校給食は、大人こそ食べるべき超ヘルシーな献立になっています。これは案外知られていません。

最大の関門は、この摂取基準を守っても美味しくしなければ、子どもたちの食べ残しが出ます。
残食と呼んでいますが、これが大量に出るようでは、学校栄養士は務まりません。
超ヘルシーで美味しい学校給食。これは文句なしに世界一の給食です。

兵庫県代表が優勝、準優勝は埼玉県代表
17回大会で優勝したのは、兵庫県宍粟(しそう)市立山崎学校給食センターの
栄養教諭・世良光さんと調理員・安原風花さんのペアでした。
大会報告HP: https://kyusyoku-kosien.net/2022final_report3/


献立は次の通りです。
紫黒米ごはん、牛乳、サワラの醤油麹ソース、切干しだいこんのサラダ、
野菜と豆乳のクリームスープ、みかん。

トレイに乗った料理をご覧ください。
このような学校給食をこの学校給食センターは毎日2000食も作って、地域の小・中学校などへ提供しているのです。
各地の代表チームが集まったコンテストの調理現場を見ていると、流れるような作業が展開されており
筆者には、神業としか言いようがありません。1時間で6食を作り、審査委員の評価をもらうのです。

創作料理を思わせる献立・レシピ
世良栄養教諭は、献立について次のように語っています。
「紫黒米ごはんは、市内産コシヒカリの七分つき米に市内で収穫した紫黒米を加えた、紫色のごはんです。
サワラの醤油麹ソースは、春と秋に旬を迎えるサワラを使ったメニュー。
日本海で水揚げされたさわらを素焼きにし、
市内産の米を市内のこうじ店で加工した醤油麹のソースをかけていただきます。
切干しだいこんのサラダは、市内産だいこんを生産者の手で加工した切干しだいこんを使い、
瀬戸内海産のチリメンジャコやヒジキと一緒に、ノンエッグマヨネーズであえました」

地元食材にこだわった素晴らしい料理であり、13人の審査委員から絶賛を浴びて優勝の栄冠を勝ち取りました。
宍粟市は山地多い食材豊富な地域であり、発酵料理の発祥の地としても知られています。
豊富な食材を使い発酵文化を特徴にした多くの郷土料理が創作され引き継がれてきました。

準優勝は幕末の実業家渋沢栄一にちなんだ学校給食
準優勝に輝いたのは、埼玉県越生町立越生小学校の栄養教諭・小林洋介さんと調理員・三好景一さんのペアでした。
献立は次の通りです。
鈴木さん家のさつま黄金飯、牛乳、平九郎の「かあぶり春巻」、元気百梅サラダ、武州カレー煮ぼうとう、大附みかん。

準優勝した埼玉県代表ペア(上)と出来上がった学校給食(下)

小林先生の解説によると、2021 年は埼玉誕生150 周年記念の年で
越生町の小中学校では同年11月に県にゆかりのある偉人にちなんだ給食を日替わりで提供しており
準優勝した献立はその中の一つでした。
昨年のNHK代がドラマでも知られた同県深谷市出身の実業家、渋沢栄一と
栄一の見立て養子であり越生ゆかりの幕末の志士、渋沢平九郎にちなんだ給食にしたそうです。

主菜の「平九郎のかあぶり春巻」は、
平九郎が官軍に敗れた顔振(かあぶり)峠を走り抜ける姿をイメージしたものだそうです。
具材に越生産のユズ胡椒や秩父名物の「シャクシナ漬け」などを使った納豆春巻です。
汁物は、渋沢栄一が愛した郷土料理「煮ぼうとう」として、
子どもたちの好きなカレー味に仕立てた「武州カレー煮ぼうとう」としました。
主食には、日本通貨発祥の地である秩父の郷土料理「黄金飯」をアレンジした、
地元農家で2年生の児童が収穫したサツマイモを炊き込んだ「鈴木さん家のさつま黄金飯」です。
「元気百梅サラダ」は、越生町の特産である梅で甘酸っぱい特製ドレッシングを作り、野菜にあえました。
デザートの「大附みかん」は、隣町のみかん農家が栽培した無農薬みかんでした。

献立は創作そのものだが知的財産権ではない
このように学校栄養士のこだわりが、トレイの料理に集約されており、学校給食そのものが創作物になっています。
この2つに関わらず、日本のトップクラスの学校給食献立を見ると、創意工夫が随所に見られ、
栄養教諭の創作意欲が出ています。
またその思想と思いを受けて美味しい料理に調理する調理員の力量もなければ実現できません。

しかし、料理レシピそのものは、栄養教諭が創意工夫して開発しても、
法では「表現」とはされずに単なるアイデアなので著作物とは認められないとう解釈です。
著作物として認められるためには、
著作権法2条1項1号の「思想または感情を創作的に表現したもの」であることが必須になります。

しかし毎回、全国学校給食甲子園で応募されてくる
1,000人以上の学校栄養士が作ったレシピとそれをもとにした食育授業のアピール内容を見ていると、
地域の食材と食の歴史、風土などを意識し、しかも子どもたちの教育に生かそうとする熱意が感じられ、
それこそ「思想または感情を創作的に表現したもの」に感じられることがあります。

今年の学校給食甲子園の優勝、準優勝を勝ち取った2人の栄養教諭のレシピを作った思いを聞いていると、
これは創作であるという感じがしてきます。
ただレシピ自体は著作物でなくても、レシピ本や写真集、レシピ動画などは
著作物に該当するので、著作権によって保護されます。
学校給食甲子園の場合は、応募した献立作品はすべて主催者団体に帰属することになりますが、
著作権に絡む事例が出てきた場合は、現著作者である学校栄養士の権利を優先的に考えることにしています。
次回は食に関する知的財産権についての事例を紹介したいと思います。

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