スパイク
2020年のお正月に行われた大学対抗の箱根駅伝では、区間新記録が続出して大変な話題になりました。
区間記録を出した10人のうち9人がナイキのヴェイパーフライという炭素繊維を使った厚底の高反発性の靴を履いていたそうです。
もちろん靴が良ければ良い記録が出る訳ではありません。日ごろの練習を重ねた結果であることは間違いありません。
ところが多くの選手が履いているということは、それなりの限界を超える効果があるということなのでしょう。
スポーツの世界では様々な道具の改良が行われており、そうした道具が世界的に記録の更新に役立っていることは明らかです。
それぞれの競技連盟では、特定の企業が特定の人だけに供給するなどといった不公平な扱いや、あまりにも高価で購入できる人が限られてしまうなど、公平でないとされると規制されてしまうおそれもあります。
短距離の競技では。地面(トラック)との摩擦力で推進力を高めるため、靴にスパイクをつけたのが1900年頃でした。イギリスのフォスター社が地面に深く食い込む釘を靴底に刺した靴を作ったのが最初だそうです。地面を着実にとらえるため、スピードが増し、次々と新記録が出たのです。釘を刺した靴底から、金属製のスパイクピンに代わり、これは消耗品なので、ねじ止めして交換できるタイプが主流になりました。野球などのスポーツのスパイクは、殆どこの形になっています。
一方短距離の記録に挑戦する靴底の技術開発は熾烈な競争を招き、つま先に2本のピンをつけるバイパー(毒蛇)がリロイ・バレルの意見を取り入れて1992年にアシックスで作られました。同じ頃カール・ルイスはピンと靴底を一体の樹脂で作ったミズノ製の靴を履いて走りました。こちらは一回走れたら良いという耐久性を考えない軽量な靴でしたが、この靴でルイスは9秒98という世界新記録を出しました。
短距離を早く駆け抜けるには、脚を交互に出すスピード(ピッチ)を上げるか、大股で駆けるストライドを広げる動作が基本です。そして、地面との接触時間を短くして、つまり滞空時間を長くすることで速く進めることができます。しかも強い力で蹴ることができれば、推進力を増すことができて、スピードアップにつながります。
このためには靴自体を軽くする。それぞれの人の着地から蹴り出しまでのメカニズムに合った、足の裏全体を使える工夫が必要になります。アシックス社が靴底には弾力性の高いカーボン繊維を使い、ピンが地面に刺さってから抜けるまでの時間を感じさせない構造を考え出しました。その結果、ハニカム構造(ハチの巣のような六角形)にして、地面をピンのような点で捉えるのではなく、線で捉えるようにしたのです。
再公表特許WO2016/163393号「スパイクソール」にこうした構造が公開されています。
東京オリンピックで桐生選手が使うそうです。
新国立競技場のトラックはゴム製で、衝撃吸収、反発力の高いモノが採用され、スパイクとの相乗効果での
新記録が出るかも知れません。楽しみです。