スタートアップ
創業して数年から十年ぐらいまでの企業で、アイデアを持っていて革新的なビジネスに取り組んでいる事業者をスタートアップ企業というケースがあります。IT(情報技術)サービスの開発や、ユニークなもの作りの分野が多いといえます。新しいビジネスの創出や起業して間もないベンチャー企業とか、スタート間もない小規模な企業であるスモールビジネスとの違いや領域は曖昧ではないかと思います。
しかし、多くのスタートアップは規模の違いはあっても、ユニークなアイデアを持ち前の技術やノウハウで実現している特徴ある企業が多いのです。ところが特にITビジネスの分野の企業は忙しさもありますが、オープンビジネスといって様々な技術やアイデアを占領するのではなくノウハウも含めてみんなの共有にしていかなくてはならないといった考えを持っている人が少なくありません。
ところが2019年6月に中小企業のノウハウや知的財産権を巡る取引に独占禁止法上の問題がいくつも見られるという報告が公正取引委員会から発表されました。その名も「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」です。この報告書は大企業や取引で優越的な地位にある事業者が下請けともいえる製造業者からノウハウや知的財産権を不当に吸い上げているとの指摘を受けて調査した結果です。
ノウハウの開示を強要される。名ばかりの共同研究を強いられる。特許出願に干渉されたり、無償譲渡を強要されるなどのケースがあげられています。十数年前ですが、私が相談を受けたケースには、携帯電話に搭載するゲームのソフトを開発して納品した会社に、通信などに影響を及ぼすバグがあった場合には損害をすべて弁償しろという条項が契約書の中に入っていました。それも納品したソフトが直接影響したか不明確な場合にも損害を賠償するとの内容でした。数十万か百万円程度の売り上げのソフトでも数億円の損害が出たら全額補償せよとのことでした。その社長は十数ページの契約書を一日掛かりで読んだが、何だかわからなくなったので妥当性を私に相談しに来たのです。特にソフトの影響が不明な場合にも補償する条項はおかしいと指摘したのですが、どこのメーカも今までなんとも言わずに結んで来た契約なので、飲めないならほかのメーカに任せると脅されたのでした。かの社長さん困ってしまい、また相談に来たので、数億円の補償が条件なら、損害賠償保険に入るので、保険料を上乗せした価格を提示したい旨を先方に提示させたのです。障害の原因が納品したソフトかどうか不明な場合の項目を削除した形で契約を見直すことで決着がついたのです。
こうした理不尽な契約条項は、スタートアップ側は気づかずに結ばされ、先方(大企業)の技術担当者も、法務部門が作った契約書を漫然と使い、下請けいじめの内容に気づいてないこともあるのかも知れません。新興企業への不利な契約や知的財産の横取りが横行する実態を監視する意味で、公正取引委員会が調査に乗り出し、契約書のひな型やガイドラインを作る動きが2019年12月になり報じられました。