コラム

ジェトロが「雲南省のコピー工場事件」の報告書を発刊

多数の資料からなる詳細な報告書
本欄「潮流」で、2012年3月7日(第28回)から同6月22日(第31回)にかけて連載した、「知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所」の詳細な報告書が発刊された。
「中国における営業秘密管理・その流出と対応に関する実態調査報告書」で、日本貿易振興会(JETRO)北京事務所知的財産部が発刊したものだ。


この事案について本欄で紹介した4回のコラムは、下記のサイトにある。

知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所(1)
知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所(2)
知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所(3)
知財の正当な権利を認めた中国・雲南省の裁判所(4)

ジェトロはこの事案を中国で活動する日本企業にとって重大な営業秘密流出ととらえ、今後、このような技術流出を防止するためのいわば教科書として発刊したものと思われる。

同書の「はじめに」を読むと「本調査においては、具体的事案に基づいて、営業秘密の管理・その流出と対応について整理し、個別事例から抽出しうる課題と対処について検討することを目的として調査し、報告書としてまとめた」としている。

A4版、227ページのものだが、本文59ページに対し、関連資料の掲載に168ページ割いている。資料編をみると、紛争となった中国の実用新案権 利説明書、雇用契約、会社と従業員の秘密保持契約、準備書面の概要、企業と従業員の覚書の内容、裁判の判決全文など25編が収納されている。

この事案のいわば被害者となった昆明バイオジェニック社が、今後の日本企業のために、すべての内部資料を開示するという姿勢があったからこのような 報告書が完成した。同社の渡部政博・董事長は「中国で活動する企業として反省することが多々あった。それをすべて公表し、他の日本企業の参考になればと 思って提示しました」と語っている。

この報告書を読むと、雲南省知識産権局がこの事案を重視し、「雲南省高級人民法院2011年知識産権司法保護典型案例」(同報告書の「はじめに」と 52ページ)として紹介していることが分かった。この報告書では、中国人関係者は裁判の判決文も含めてすべて匿名にしてあるが、中国当局の発表はすべて実名である。

この部分まで匿名にすると、中国の国家機関の発表文を「改ざん」することになるので、このようにすべてそのまま収納したものと思われる。

実効性のある秘密保持契約書が必要
昆明バイオジェニック社は、中国でのバイオプラント事業を展開するとき、中国人社員を多数雇用した。そのとき全員と労働契約書を結び、研究開発部門を担当する社員とは秘密保持契約書も結んでいる。

しかし今回の事案では、秘密保持契約書は実効性がないことが分かった。つまり契約書の中で当事者の賠償責任などをきちんと盛り込んでいない場合は、 単なる紙切れ同然になる。このような契約書は、日本ではともすれば倫理的観点から締結者の心情に影響を与えることを期待するものだが、中国では通用しない。

中国で活動する日本人弁理士は、「契約違反したら具体的な罰則や高額な罰金額を記載していなければ実効性はない」と語っている。ただし法外な金額などは雇用者保護の観点で非合法になるので中国の弁護士らと十分に協議する必要がありそうだ。

また、今回の事案では、営業秘密を勝手に持ち出してコピー工場を作った元従業員らは、まだ会社に勤務しているときからコピー工場建設と営業活動を予 定した企画書を作成していた。彼らが会社を辞めた後に同社内のコンピュータ関係のメモリーをすべて精査したところ、この企画書を発見した。

この企画書は、まさにコピー工場建設と運営のすべてを盛り込んだPDF書類だったが、裁判では証拠として採用されなかった。メールのやり取りも証拠にはならなかった。電子情報の証拠能力については、日ごろから電子情報の管理がいかに重要であるかも反省点としてあげている。

また、中国では開発した技術をノウハウとして秘匿するのは難しく、実用新案など知的財産権として確立したほうがいいという関係者の反省も紹介してい る。昆明バイオジェニック社は、中国で実用新案、特許などを出願すれば、1年半後に公開されて真似されると危険があるとして、ノウハウとして秘匿しようと したものだが、今回はそれが裏目に出ていることを指摘したものだ。

また、一審、二審の裁判の詳細が関連資料と共に報告されているのも参考になった。特に雲南省高級人民法院の判断は、すべて厳密な証拠に基づいた判断を示しており日本の司法判断とほとんど同じ法理で裁いていた。

雲南省は、中国でも西のはずれにあるいわば遅れた地方の代表地域でもあるが、中国で危惧されている地方保護主義はなかった。

この報告書は、事実に基づいた内容を淡々と示し、また企業から提出された多くの資料と当事者の反省点をそのまま記載されており、中国で活動する日本企業にとっては非常に参考になる内容になっている。

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