コラム

エサキダイオード

筑波大学の元学長の江崎玲於奈博士が発明したダイオードで、トンネルダイオードとも呼ばれています。日本人の発明したもので、名前が冠として付いたものは多くはありませんので、皆さん一度は耳にしたことがある名前だと思います。

江崎玲於奈博士は、このダイオードの発明で1973年にノーベル物理学賞を受賞したことは有名です。

このダイオードの特許は昭和32年(1957年)に出願され、昭和35年(1960年)には、特許第2673362号(特公昭35-6326号)として登録されています。出願人はソニー株式会社です。発明者には江崎玲於奈博士の他に、もう一人「黒瀬百合子」さんが名を連ねています。共同発明者の黒瀬さんはソニーの女性研究者第1号だそうで、会社に入って3年目の新進気鋭の研究者だったそうです。

1974年4月10日の日本経済新聞には、「トンネル効果」の陰に女性立役者、江崎博士の元助手宮原(旧姓黒瀬)百合子さん、ひっそりと他界して、死去の ニュースが報じられたほどです。もっと複雑なのは、エサキダイオードの学会発表には東通工(東京通信工業:後にソニー株式会社)の江崎玲於奈、黒瀬百合 子、鈴木隆の3名が連名で予稿集に載っていたというのです。この鈴木隆さんは実習生として会社にきていたそうで、ダイオードの特性測定をしていてラクダの こぶのような特性を見つけたというのです。このためエサキダイオードはけして江崎さんが一人で発明したものではないのではないかと指摘する人がいます。 「特許の文明史:守 誠(新潮社発行)より」。

しかし、私は江崎博士の発明に違いないと思うのです。というのは、私がある古い資料を目にしたことがあるからです。

江 崎さんはソニーに勤める前には、川西機械製作所(後の神戸工業・今の富士通テン)で研究をしていました。その当時の実験データを見たことがあるのです。古 い資料でしたが、私が見たグラフには負性抵抗を示すダイオードの特性曲線が描かれていました。トンネル効果を示した図でした。江崎さんは当時からトンネル 現象の研究を進めており、ある程度のトンネル効果を把握していたと信じることができるものです。だからノーベル賞を一人で受賞することは当然だと疑わない のです。

ここで一つ問題が生じます。それは、私が見た負性抵抗を示すラクダのこぶのような曲線が、不純物を入れたPNダイオードによるものだとすると、江崎さんは 神戸工業の時代にすでにエサキダイオードを発明していたことになりますが、その詳細は手元に資料が無く確かめようがありません。その頃には、江崎さんだけ でなく、ベル研究所でもPN接合の低温でのトンネル現象の実験を進めていたそうですので、不純物を入れた常温でのトンネルダイオードではなかったのかも知 れません。

このエサキダイオードの基本特許は日本人の手によりますが、応用回路の特許は、ほとんどがアメリカ人の手で押さえられてしまいました。マイクロ波の増幅器やスイッチとしての応用研究がされましたが、大きく普及するまでには至りませんでした。

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