アメリカ第一
いよいよトランプ大統領の時代がスタートしました。もう少しビジネスライクな対応をするのかと思いきや、毎日のように予想通りなのか、選挙中に言っていたことを実行するアメリカ第一主義の動きが本格化しています。
経済面の指標となる株価は、当面アメリカの雇用促進や、経済的な購買力の向上などを期待して上昇しているのです。アメリカの株価につれられる形なのか、日本経済にもプラスになると判断しているのか、素人には動きが理解できません。
アメリカが自国を大切にする政策は、今更は始まった訳ではなく、とりわけ知的財産の世界では数多くの実例があります。
言うまでもなくアメリカにおけるプロパテント政策で、1982年の連邦巡回裁判所CAFCの設置に始まり、知的財産関係の裁判は集中して審議することで、特許をめぐる裁判における判決は特許の無効化率が80%から30%台に落ち、権利者が優位になる判決が目白押しといった状況が続きました。また、同時に損害賠償額も高騰し、権利を持たない製造メーカや、日本をはじめ諸外国からの輸入品では、多額な賠償を支払わされることになってしまったのです。
さらには、1985年のヤングレポートによる知的財産権保護強化政策を受け、国際貿易委員会(ITC)での、輸入での不公正な行為(ダンピング、特許侵害など)を調査し、重大な被害があれば輸入差し止めなどの被害者の救済を行うことが出てきました。
ITCへの提訴があると、1年以内に結論が出されることが義務つけられ、原告、被告とも膨大な証拠資料の提出が必要で、特にアメリカ輸出をしている企業は、短時間に証拠集めと、相手から出された証拠の解読に大変な労力を費やして、どう見てもアメリカに有利な構造になっています。実際に輸入品の差し止めを求められた日本の企業は大変な苦労をしました。また、デポジションという宣誓証言は、相手側の弁護士から指名された人が長時間にわたる英語による聴取を受け、肉体的にも精神的にも大変なことだと、実際に証言した人から聞いたことがあります。
こうした中で、着実に米国でのビジネスを軌道に乗せた例があります。なんと言っても自主開発した技術の勝利を物語った例です。
インターネットを背景にした高速大量通信の伝送媒体として、家庭にまで張り巡らされた光ファイバー通信に使われているガラスファイバーケーブルの技術です。
アメリカのコーニンググラスの米国特許第3659915号「石英ガラスの光伝送路」で日本の住友電気工業をめぐる争いです。住友電工は世界各国で独自の特許を取得していました。日本特許第1095200号(特公昭55-15682号)「光伝送路及びその製法」です。高い屈折率の中心領域と、石英にフッ素をドープした低い屈折率を外側に付ける技術です。CAFCやITCが設置された時期に提訴され、コーニングの発明を広く解釈する判断がなされ、苦労した結果、最後は和解により決着しました。その後アメリカの通信会社と合弁事業を設立して、ビジネス面で成功に結び付けたのです。