コラム

アメリカ特許商標庁の特許登録動向から見た世界の産業構造の分析 その1

今年の日本知財学会は、さる6月25日、26日に専修大学生田キャンパスで開催され、延べ1000人内外の知財関係者が参加して熱い討論を展開した。筆者は、株式会社発明通信社の山縣大輔専務と共に国際知財問題のセッションに参加した。

このコラムでは、知財学会で発表した内容と引き続き研究している内容を吟味して2回にわたって報告したい。

日本の特許出願件数が減少

日本の特許出願件数が2006年から毎年減少している。グラフで見るようにかつて年 間40万件を超えていた日本の特許出願件数がこの数年、急激に減少している。それと対照的にアメリカ、中国は2000年以降、順調に増加しており、特に中 国はこの数年急増している。この勢いでは近い将来、アメリカを抜いて世界トップの特許出願国になるだろう。日本はなぜ急速に減少傾向にあるのか。

その原因については様々な機関や研究者が分析しているが、決定的な分析結果は出ていないようだ。筆者らの分析では次のようなことがあげられる。

第 1の原因は、日本の産業界が国内の競争から国際競争へとシフしてきたので、国内出願数を減らして外国出願を重点化してきたため相対的に国内出願数が減少し た。企業の知財分野の予算額が伸びない中で、重要な特許出願をする場合、どうしても外国出願優先にならざるを得ないという事情があるようだ。

第2の原因は、産業構造の変革にやや遅れをとっている日本企業は、全体的に売上高が減少か横ばい傾向であり、知財分野も緊縮予算の影響を受けて先細りになっているのではないか。少ない予算で効率のいい出願を目指すので外国出願が増え国内出願が減少した。

第3の原因は、どこの企業も限られた予算の中で出願するとき、有効な特許案件だけに絞って出願するようになり、無駄な出願はしないようにしている。特許庁が出願を厳選するように指導したことも影響しているのではないか。

そのほかにも要因はあるのだろうが、大体はそのような状況から日本の国際出願数が減少してきたとみている。

一 方でアメリカは、IT(情報科学)産業革命の波に乗って産業活動も知財活動も活発な企業群が多数あり、中国もまたIT産業革命に乗って知財活動が活発に動 いていると理解できる。中国の特許出願動向は、これまで中国に移転してきた外国企業が出願する件数が多かったが、いまや中国国内企業の方が外国企業の出願 数を上回り、逆転してきた。

中国政府は、技術移転によって「世界の工場」になることから、いまや独自の技術開発で中国が工業国家として存在感を出そうと知財立国を目指している。

日本企業の日米での特許出願活動を比較

日本を代表する企業が2000年からこの10年間でどのような知財活動であった のかを見るために、日本特許庁での公開特許件数の10年間の増減比率と米国特許商標庁(USPTO)での特許登録件数の10年間の増減比率を出して表にし てみた。このデータはUSPTOの統計と特許庁の統計から割り出したものだ。

 

会社名 2000年・公開特許件数 2009年・公開特許件数 2009/2000 2001年USPTO特許登録件数 2010年USPTO特許登録件数 2010/2001
日立製作所 8673 4174 0.48 1271 1460 1.2
ソニー 8289 4694 0.57 1363 2150 1.6
キヤノン 10751 7243 0.67 1877 2552 1.4
パナソニック 12314 8539 0.69 1440 2482 1.7
東芝 8780 7625 0.87 1149 2246 2.0
富士通 3412 3236 0.9 1166 1296 1.1
リコー 5020 4798 0.96 375 1200 3.2

 

表に取り上げた7つの大企業の特許庁への公開特許件数は、この10年間に軒並み減らしている。日本全体の特許出願件数が減少してきたのは、毎年、多数の特許出願件数を出してきた大企業が大幅に出願件数を減少させたことが大きな影響を与えていることが分かる。

日 立製作所に至っては半分以下、ソニーはほぼ半分に、キヤノン、パナソニックも7割近くが減少している。日本での特許公開件数を大幅に減少させている一方 で、この7社のアメリカ特許商標庁(USPTO)での特許登録件数の増減比を出してみると、この10年間でいずれも増加傾向にあることが分かる。

この傾向を解釈すれば、日本企業は国内での競争から外国での競争に切り替えてきた結果、USPTOへの特許登録件数を増加させていると見ることもできるだろう。これが正しい見方だとすると、売上はどうなっているのだろうか。

2001年と2009年の日本円での概算売上高を調べてみると、7社のうちソニーと富士通は売上高を減少させている。その他の5社は売り上げを伸ばしているものの、わずか1割から2割の増加にとどまっている。

IT産業革命の波に乗る韓国・台湾勢

次のページに掲載した表は、各種の統計データと各企業のIR(Investor Relations)情報から拾い出した数字から作成した2001年と2009年の概算売上高の比較とUSPTOへの特許登録件数を比較したものである。 売上高の単位は外国企業との比較をするためにドル換算を試みた。日本企業のドル建ての概算売上高は、2001年の場合は同年12月の相場である1ド ル=124円、2009年は同1ドル=89円とした。単位は「億ドル」とした。このような算出方法と売上高比較が妥当であるかどうかご批判をいただければ 幸いである。

この表は、2009年の売上高を2001年のそれで割った倍率の高い順に並べたものだ。この表で見ると鴻海精密工業(ホンハイ 社)、ヒューレットパッカード、サムスン電子、LG電子がトップ5である。日本企業は、7位に本田技研工業が顔を出しているのが最高であるが、筆者から見 ると国際競争の場で健闘しているように見える。しかしこのような見方が妥当かどうかも議論してみたい。

鴻海精密工業(ホンハイ社)の躍進 は、おそらく世界の産業史でも特筆されるような特異な存在になるだろう。ホンハイ社は、EMS(Electronics Manufacturing Service)であり、電子機器・製品群の受託生産サービスを行う企業のことである。IT産業革命の波に乗って2000年代から急激に業績を伸ばしてき た。同社は台湾の金型製造のいわば町工場から出発してこの30年間に世界の代表的な製造企業に躍進した。ホンハイ社が製造している代表的な製品は、アップ ル社のiPodシリーズ、Macシリーズ、モトローラやノキアの携帯電話機、インテル社のマザーボード、ニンテンドーのWii、DSなど、デル社、HP社 のPCなどである。携帯電話機だけで1億台の生産と言われている。世界の携帯電話の生産台数は年間、10億台と言われているのでその1割がホンハイ社で供 給していることになる。世界中の人々が日常的に持ち歩いて使用している機器の1割を1社で賄うということは想像を絶する製造力である。

2010 年のUSPTOへの特許登録件数のトップ20の企業を見ると、半分の10社が日本企業であり存在感が抜群である。日本に次いでアメリカ企業が6社、韓国3 社、台湾1社となっている。トップ20は日米韓台湾という国・地域で占められ、ランキング常連だったシーメンス、TI(テキサス・インスツルメンツ)、モ トローラ、コダックなどがいずれも姿を消した。

この10年間でマイクロソフト、シスコテクノロジーが特許登録数で大躍進したのはIT関連で それぞれの分野で覇者になっているからだ。一方で製造業ではサムスン電子、ホンハイ精密工業が3倍以上に登録件数を伸ばしている。日本ではセイコーエプソ ンが約3倍まで急増させている。その戦略も分析してみたい。

日米の特許出願・登録件数と企業業績を分析して産業構造の変革を精査し、産業構造の変革を検証した。そして今後の企業活動の動向を予測した試みを提示して議論のテーマとしたい。

 

2001年と2009年の概算売上高(億ドル)の比較と特許登録数の比較
(日本企業は、2001年は1ドル=124円、2009年は1ドル=89円で換算)

順位 企 業 2001年売上高 2009 年売上高 2009/2001 2001年特許登録数 2009年特許登録数 2009/2001
1 ホンハイ(鴻海)精密工業(台湾) 63 554 8.8 441 666 1.5
2 ヒューレットパッカード 181 1,146 6.3 978 1269 1.3
3 サムスン電子(韓国) 350 1,191 3.4 1450 3592 2.5
4 LG電子(韓国) 225 625 2.8 248 1064 4.3
5 ハイニックス半導体(韓国) 30 68 2.3 533 585 1.1
6 マイクロソフト 253 584 2.3 396 2929 7.4
7 本田技研工業(日本) 521 1124 2.2 562 725 1.3
8 トヨタ自動車 1218 2157 1.8 330 792 2.4
9 リコー(日本) 135 227 1.7 375 985 2.6
10 日立(日本) 679 1124 1.7 1271 2146 1.7
11 シスコテクノロジー 222 361 1.6 163 913 5.6
12 東芝(日本) 435 717 1.6 1149 1669 1.5
13 GE 1076 1568 1.5 1107 1379 1.3
14 パナソニック(日本) 555 834 1.5 1440 1759 1.2
15 キヤノン(日本) 234 361 1.5 1877 2241 1.2
16 AMD(Advanced Micro Devices) 39 54 1.4 1086 181 0.2
17 インテル 265 351 1.3 809 1534 1.9
18 テキサス・インスツルメンツ 82 104 1.3 799 649 0.8
19 富士フイルム(日本) 194 245 1.3 583 873 1.5
20 ソニー(日本) 611 811 1.3 1363 1656 1.2
21 三菱電機 294 377 1.3 1184 521 0.4
22 マイクロン 39 48 1.2 1643 966 0.6
23 セイコーエプソン(日本) 108 126 1.2 498 1328 2.7
24 富士通(日本) 442 526 1.2 1166 1615 1.4
25 NEC(日本) 411 474 1.2 1953 1035 0.5
26 IBM 859 958 1.1 3411 4887 1.4
27 アルカテル・ルーセント(仏) 213 217 1 1109 715 0.6
28 シーメンス 1196 1054 0.9 794 1311 1.7
29 モトローラ 299 220 0.7 778 339 0.4
30 コダック 132 76 0.6 719 296 0.4

 

http://www.ipo.org/AM/Template.cfm?Section=About_IPO(2011年3月8日)と企業各社のIR情報、HP情報などから作成。

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