コラム

アメリカ特許商標庁の特許登録動向から見た世界の産業構造の分析 その2

アメリカ特許商標庁(USPTO)での特許登録状況から世界の産業構造の変化と日本企業の特許戦略動向を分析してみた。

順位 企業 2009年
1 IBM 4887
2 サムスン電子(韓国) 3592
3 マイクロソフト 2929
4 キヤノン(日本) 2241
5 日立(日本) 2146
6 パナソニック(日本) 1759
7 東芝(日本) 1669
8 ソニー(日本) 1656
9 富士通(日本) 1615
10 インテル 1534
順位 企業 2010年
1 IBM 5896
2 サムスン電子(韓国) 4551
3 マイクロソフト 3094
4 キヤノン(日本) 2552
5 パナソニック(日本) 2482
6 東芝(日本) 2246
7 ソニー(日本) 2150
8 インテル 1653
9 LG電子(韓国) 1490
10 ヒューレットパッカード 1480

上のリストはUSPTOの特許登録件数の2009年と2010年のトップ10のリストである。これを見ると2009年は、日本企業6社、米国企業3 社、韓国企業1社だったものが、2010年は、日本企業4社、米国企業4社、韓国企業2社となった。日本企業が後退し、韓国企業が躍進してきた。この1年 間だけの動向で全てを言うことはできないが、韓国の躍進は認めなければならない。サムスン電子は、近未来、IBMを抜いてトップに立つ目標を立てていると 言われており、近年の上昇機運をみると実現性が高い。

ただし、サムスン電子の本当の実力についてはまだ不確定であり、特許出願、登録件数と研究開発力との相関関係がどうなるか非常に興味深い。いずれにしてもこの数年内にその行方は分かってくるだろう。

順位 企業 2001年特許登録数 2009年特許登録数 2009/2001
1 マイクロソフト 396 2929 7.4
2 シスコテクノロジー 163 913 5.6
3 LG電子(韓国) 248 1064 4.3
4 セイコーエプソン(日本) 498 1328 2.7
5 リコー(日本) 375 985 2.6
6 サムスン電子(韓国) 1450 3592 2.5
7 トヨタ自動車(日本) 330 792 2.4
8 インテル 809 1534 1.9
9 日立(日本) 1271 2146 1.7
10 シーメンス 794 1311 1.7
11 ホンハイ(鴻海)精密工業(台湾) 441 666 1.5
12 東芝(日本) 1149 1669 1.5
13 富士フイルム(日本) 583 873 1.5
14 富士通(日本) 1166 1615 1.4
15 IBM 3411 4887 1.4
16 ヒューレットパッカード 978 1269 1.3
17 本田技研工業(日本) 562 725 1.3
18 GE 1107 1379 1.3
19 パナソニック(日本) 1440 1759 1.2
20 キヤノン(日本) 1877 2241 1.2
21 ソニー(日本) 1363 1656 1.2
22 ハイニックス半導体(韓国) 533 585 1.1

次のリストは、USPTOでの直近9年間の登録動向である。この9年間で登録が1倍以上の企業は22社である。このうち日本企業はちょうど半数の 11社あり、アメリカ企業6社、韓国企業3社、台湾企業とドイツ企業が各1社となっている。日本の企業の特許動向は圧倒的に優勢であると読み解いてもいい だろう。ここでも韓国勢の健闘が目立ってきている。

順位 企業 2001年特許登録数 2009年特許登録数 2009/2001
1 マイクロソフト 396 2929 7.4
2 シスコテクノロジー 163 913 5.6
3 LG電子(韓国) 248 1064 4.3
4 セイコーエプソン(日本) 498 1328 2.7
5 リコー(日本) 375 985 2.6
6 サムスン電子(韓国) 1450 3592 2.5
7 トヨタ自動車(日本) 330 792 2.4
8 インテル 809 1534 1.9
9 日立(日本) 1271 2146 1.7
10 シーメンス 794 1311 1.7

さらにUSPTOの登録率を直近9年間のトップ10を洗い出したものが上のリストである。これを見るとIT産業革命の波に乗って企業活動を大幅に伸 ばしている企業が上位3社であるが、目立っているのは4位に食い込んできた日本のセイコーエプソン社である。同社は、なぜこのようにアメリカでの特許戦略 に積極的になったのか。

筆者が取材したところ、同社は2002年に①Printer、②Projector、③Displayの3つの研究開発に注力する戦略を立てたという。そのときのキャッチフレーズは、ドルフィン( Double Leading Patent by Promoting High Quality Innovation )計画と呼んでおり、英語表記のイニシャルを組み合わせてDolphin としたようだ。ドルフィン計画とは知財力の倍増計画であり知財部員の大幅増員も 行った。 知財部員は2000年に約150名だったものが、2002年には約190名、2006年には約380名へと大増員を図っている。

それでは、戦略的に特許登録を増加させた技術分野は何か。1990年から2010年までのIPC(国際特許分類)別の登録件数での順位の動向を調べたところ、戦略的に増加させた技術は次のようなものであった。

H05B(電気加熱;他に分類されない電気照明) 69位 → 10位

B05C(液体または他の流動性材料を表面に適用する装置一般) 90位 → 11位

H03B(振動の発生,直接または周波数変換による振動の発生,スイッチング動作を行なわない能動素子を用いた回路による振動の発生) 107位 → 21位

B05D(液体または他の流動性材料を表面に適用する方法一般) 115位 → 16位

IPC分類の特許登録動向から見た戦略を推測すると、プリンターやプロジェクターの技術開発に注力しているようであり、プリンターの開発では、液晶 技術に強い特許を出してロイヤリティ収入を増加させたのではないかと推測できる。企業の特許戦略はどの企業も公開するようなものではないので、正確な戦略 は不明だが、少なくともIPC分類の動向から見た場合は、そのように見受けられる。

また、筆者がゲノム関係の研究者らに聞いた話では、同社のプリント技術はゲノム関連技術に応用できるものがあり、プリンター技術の進展ではなくゲノ ム技術の開発のための特許戦略ではないかというコメントがあった。意外性があるので興味があるが、その内容についてはいずれ明らかになっていくだろう。い ずれにしても、セイコーエプソン社のますますの特許戦略の進展を期待している。

次のリストは、日本企業の公開特許件数のこの10年間の動向と、同じ時期のUSPTOでの特許登録動向を分析したものである。

会社名 2000年公開特許件数 2009年公開特許件数 2009/2000 2001年USPTO特許登録件数 2010年USPTO特許登録件数 2010/2001
日立製作所 8673 4174 0.48 1271 1460 1.2
ソニー 8289 4694 0.57 1363 2150 1.6
キヤノン 10751 7243 0.67 1877 2552 1.4
パナソニック 12314 8539 0.69 1440 2482 1.7
東芝 8780 7625 0.87 1149 2246 2.0
富士通 3412 3236 0.9 1166 1296 1.1
リコー 5020 4798 0.96 375 1200 3.2

このリストで見るように、日立、ソニー、キヤノンなど日本を代表する世界的な企業は、日本での特許出願件数を減らしている。日立は半分以下に減少させている。これに対しUSPTOでの登録件数は軒並み増やしている。これは何を意味するか。

日本企業のグローバル戦略ということで間違いなさそうだ。つまりこれまでは国内ライバル社への優位性確立と牽制で特許出願の件数が膨れ上がっていたが、もはやそのような時代ではなくなり、国際的な競争力を高めるための戦略に切り替えてきたと見るべきだろう。

順位 企業 2001年売上高 2009年売上高 2009/2001
1 ホンハイ(鴻海)精密工業(台湾) 63 554 8.8
2 ヒューレットパッカード 181 1,146 6.3
3 サムスン電子(韓国) 350 1,191 3.4
4 LG電子(韓国) 225 625 2.8
5 ハイニックス半導体(韓国) 30 68 2.3
6 マイクロソフト 253 584 2.3
7 本田技研工業(日本) 521 1124 2.2
8 トヨタ自動車(日本) 1218 2157 1.8
9 リコー(日本) 135 227 1.7
10 日立(日本) 679 1124 1.7
11 シスコテクノロジー 222 361 1.6
12 東芝(日本) 435 717 1.6
13 GE 1076 1568 1.5
14 パナソニック(日本) 555 834 1.5
15 キヤノン(日本) 234 361 1.5

USPTOの登録件数上位30傑の企業で、この9年間の売上を伸ばした企業の伸び率ランキングで見たものが上のリストである。売上高はドル建てで換 算したものであり、2001年は1ドル=124円、2009年は同1ドル=89円とした。表の売上数字の単位は「億ドル」である。

これで見るように9年間で1.5倍以上に売上を伸ばした企業は15社ある。そのうち日本企業は7社でアメリカ企業は4社、韓国企業は3社、台湾企業 が1社となっている。売上高を急激に伸ばした台湾企業の鴻海精密工業(ホンハイ社)については前回も触れているが、簡単に言えば「何でも請負製造企業」で あり、まさにIT(情報科学)産業革命の申し子のような企業となっている。間違いなく世界の産業史の中で名を残す企業になるだろう。

順位 企業 2001年売上高 2009年売上高 2009/2001
1 本田技研工業 521 1124 2.2
2 トヨタ自動車 1218 2157 1.8
3 日産自動車 500 845 1.7
4 リコー 135 227 1.7
5 日立 679 1124 1.7
6 東芝 435 717 1.6
7 パナソニック 555 834 1.5
8 キヤノン 234 361 1.5
9 富士フイルム 194 245 1.3
10 ソニー 611 811 1.3
11 三菱電機 294 377 1.3
12 セイコーエプソン 108 126 1.2
13 富士通 442 526 1.2
14 NEC 411 474 1.2

それでは、代表的な日本企業の売上高はどうだったのか。2001年と2009年を比較したランキングが上の表である。自動車の3社がいずれも売上を伸ばしており、最近の産業構造の変革を体現しているとも言えそうだ。

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