コラム

まだ未知数の鳩山理系内閣の知財政策

政権交代によって誕生鳩山内閣は、日本で初の本格的な理系内閣である。鳩山首相は東大工学部卒、スタンフォード大学で学位を取得、東工大経営工学部の助手を務めた経歴がある。平野博文官房長官も中央大学理工学部卒だ。

管直人・国家戦略相は東工大理学部応用物理学科卒でしかも弁理士である。これまで日本の政治の世界では理系人間の存在感がほとんどなく、政権中枢で活躍したという人もほとんどいなかったことを考えると、これは異色の内閣である。

科学技術政策や知財政策の推進に期待をかけたのは当然だが、今のところその兆しはまったく感じられない。先ごろ国民的な話題を呼んだ2010年度予算の概算要求から無駄を洗い出すことを目的にした「仕分け事業」では、科学技術政策のいくつかの事業がばっさりと切られる査定を受けて、科学技術関係者の怒りを買っている。

スーパーコンピューター関連、宇宙開発関連が狙い撃ちをされたように「廃止」、「大幅縮減」、「見直し」などの査定結果を突きつけられた。産学官連携戦略展開事業も、仕分け結果では「国としてやる必要がない」として「廃止」の査定を受けた。

産学官連携は、21世紀に入ってからにわかに高まったもので、大学から生まれた知財を民間に技術移転してイノベーションを起こそうとしる代表的な施策だ。科学研究費補助金など科学技術研究に欠かせない競争的資金についても、「縮減」と査定された。関係官僚の生の声を聞いてみると、この数年の緊縮財政の時代に科学技術予算は軒並み右肩上がりに増えていたので、財務省が狙い撃ちしてきたものだという感想が多かった。

財務省は、自民党時代に大物議員も含めて科学技術予算を増やす一方で政治決着を図られたと思っている節がある。鳩山首相が官邸発のメルマガでも発信しているが、「過去のしがらみ」を断つという意味で仕分け事業は必要だという。自民党政権時代に、政治的決着で押しつけられた予算の削減、廃止が狙いの一つだったのである。

先ごろ、日本知財学会の秋季シンポジウムが、財団法人機械産業記念事業団(TEPIA)ホールで開催され、「現行特許制度50年・国際視点とユーザー視点に立った制度改革」をテーマに討論が行われた。

基調講演は「我が国のイノベーション知財戦略のあり方」として民主党参議院議員の藤末健三議員が行った。藤末議員は、日本の研究開発費、研究者数、論文数などの国際比較を示しながら、知財戦略へと話を広げ、イノベーション担当大臣が必要であるとの主張を展開した。

講演後の質疑で筆者は「民主党政権になって、政策決定を政治主導とすることには個人的には賛成する。しかし科学技術政策と知財政策について一般国民がどのように民主党や政治家に訴えたらいいかその道筋が見えない。どうすればいいか」と質問した。

これに対し藤末議員は、民主党内でもその道筋がきちんと決まっていないとし、今後、整備していくことを示しながら、まだ政権移譲の過渡期であり混乱している面もあると認めながら一般国民からの要望をくみ上げていく意欲を示した。筆者はさらに、「今後、知財政策などで要望があれば、藤末先生に直接アクセスしてもいいか」とたたみかけると、「はい、結構です」との回答だった。

国家にとって科学技術や知財とは、政策ではなく戦略の話である。日本は科学技術創造立国が国是であり、施策よりも戦略を優先しなければならない。ということは、戦略を練った政治的視点が科学技術や知財には必要だ。

民主党政権になってからまだ日が浅いので、多少の混乱があっても仕方がない。がしかし、鳩山理系内閣が科学技術や知財にどのような政策を掲げていくのか、これから大いに注目していきたい。

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