コラム

ぶっちぎりで単独受賞した大隅良典先生のノーベル賞受賞

基礎的研究成果と単独受賞が意味するもの

大隅良典先生(東工大栄誉教授)がノーベル生理学・医学賞を受賞した。3年連続ノーベル賞受賞者を出したことは、日本の科学研究レベルの国際的な高さを証明したものであり大変嬉しい。

大隅先生の受賞業績で特筆されるのは、生命現象の真理の発見と単独受賞である。1987年に「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」で、単独受賞した利根川進先生の快挙を思い出させた。

マラソンレースに例えれば、終始トップを走っていた大隅先生が、後方を走ってくる2位、3位の姿などまったく見えない独走態勢でゴールを駆け抜けて行った光景であろう。

利根川先生の受賞を発表したカロリンスカ研究所・選考委員会事務局長のヤン・リンドステン博士(カロリンスカ研究所教授・附属病院長)が語った「ドクター・トネガワは10年あまり、他の研究者の追随を許さず独走した」というコメントを思い出させた。

大隅先生の発見は、生命科学の研究の歴史の中でも特筆される業績である。まさに利根川先生の業績に匹敵する真理の発見である。細胞内で営まれているたんぱく質製造の仕組みは、20世紀最大の生物学の発見とされるワトソン・クリック博士の遺伝子構造の解明によって明らかにされ、世界中の研究者に衝撃を与えた。

それを受け継いで抗原・抗体反応の仕組みを解き明かしたのが利根川先生であり、生物・医学界に衝撃を与えた。その衝撃と同じくらいのインパクトを与えたのが、大隅先生の発見である。

細胞内でたんぱく質を製造していることは、それまで分かっていた。しかしそのたんぱく質を細胞内で壊してアミノ酸に分解し、今度はそれを使った新たにたんぱく質を製造(オートファジー、autophagy)することを想像した生物学者はいなかっただろう。それを大隅先生は、1988年に光学顕微鏡で見た現象からヒントを得てその現象を解明した。

この世紀の発見で大隅先生は次々と論文を発表し、世界の研究者が追試して驚き、研究はますます発展して論文数が増加していった。

政策研究大学院大学・科学技術イノベーション政策研究(SciREX)センターの原泰史さんが早速、大隅先生の論文・特許について分析して発表している。

原さんの素早い対応にはいつも敬服する。
http://scirex.grips.ac.jp/topics/archive/161005_625.html

燎原の火のように燃え盛ったautophagy研究

原さんの分析によると、autophagy がキーワードに含まれる論文公刊数の推移は、この10年間で急峻的に増えて行った。真理の発見から始まった学問の進展する勢いをこれほど感じるグラフはない。

公刊論文数の推移


出典:原泰史氏の分析

さらに驚かされるのが、大隅先生の論文の被引用数の推移である。グラフで見るように2000年からこの15年間に右肩上がりの増加である。論文が引用される回数がこんなに急増することは、近年の学問の発展の傾向を見ることができる。

年次被引用数

出典:原泰史氏の分析

それを裏付けたのが大隅先生の国際的な叙勲の数々である。2012年からでも下記のような国際的に知られる叙勲に輝いている。

•2012年11月(平成24年) 京都賞
•2013年9月(平成25年) トムソンロイター引用栄誉賞
•2015年4月(平成27年) 日本内分泌学会マイスター賞
•2015年10月(平成27年) ガードナー国際賞
•2015年11月(平成27年) 文化功労者
•2015年11月(平成27年) 慶應医学賞
•2015年11月(平成27年) Shizhang Bei Award
•2015年12月(平成27年) 国際生物学賞
•2016年4月(平成28年) Rosenstiel Award
•2016年4月(平成28年) Wiley Prize
•2016年6月(平成28年) The Dr. Paul Janssen Award 2016

特に2015年からの叙勲ラッシュは異常である。そのアンカーにノーベル賞が待ち構えていたことは当然である。「ノーベル賞当選確実」だったのだ。

特許にはほとんど無関係だった大隅先生の研究成果

大隅先生の生命現象の維持に必要な細胞・遺伝子レベルの真理の発見は、最近になってパーキンソン病などの神経変性疾患やがんの治療に役立つのではないかとして、世界的に実用化の研究が広がっている。

原泰史さんの追跡によると、大隅先生が発明者になっている特許出願は、次の2件になっている。

①【公開日】平成12年2月29日(2000.2.29)、特開2000-60574(P2000-60574A)
【発明の名称】オートファジーに必須なAPG12遺伝子、その検出法、その遺伝子配列に基づくリコンビナント蛋白の作製法、それに対する抗体 の作製法、それに対する抗体を用いたApg12蛋白の検出法。

②【公開日】平成14年12月4日(2002.12.4)、特開2002-348298(P2002-348298A)
【発明の名称】蛋白質とホスファチジルエタノールアミンの結合体

結果は2件とも、特許には結びつかなかった。

①は、審査請求されず、②は拒絶査定されていたからだ。

これは特許出願の失敗ではない。大隅先生の研究成果が、いかに真理の発見そのものの基礎研究であり、特許とは無関係だったかという証拠ではないだろうか。

むろん今後、世界中展開される病気の治療に役立つ発明があれば特許は出願されるだろう。実用化の研究競争は、これからが熾烈なものになるだろう。

大隅先生の基礎研究でリードした優位を日本の研究陣は実用研究の競争でどこまで健闘できるのか。すでに中国の研究陣はこのテーマで多くの論文を出し始めている。それはいいことであり、日本にとって刺激になる。

ノーベル賞の先に次のノーベル賞がある。実用研究ですでにオートファジーの国際競争が始まっているのである。

頑張れニッポンの研究陣!である。

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