うまい酒
お酒、特に日本酒は甘味、辛味、苦味、酸味、渋味の五味(舌触り)や、コクと呼ばれる五味の調和の具合、それに喉越しとか、後味とか味に絡む様々な要素がうまいかどうかの判断要素なのだそうです。これに、口に含んだ風味、香りが大切なのです。
香りも、麹香、熟し香、吟醸香、人工香(つけ香、合成酒香、薬品臭、水飴臭)、うつり香り(濾過臭、木香、樽臭、ビン香、コルク臭)、変質・劣化・腐敗臭と多くの香りや臭いが、良し悪しを判断する材料になるようです。
うまい酒を判断する清酒の品評会が始まったのが、1907年だそうですが、1911年からは国税庁醸造研究所での全国鑑評会が催され、清酒の金賞とか銀賞が決められるようになりました。全国鑑評会では人が利き酒を行う訳ですが、昭和の初期と現在では、大分変化があるのです。大きな変化としては淡麗で辛口の方向だといいます。飲み手の嗜好の変化を反映しているのですが、鑑評する人が評価の基準を微妙に変化させているというのは、大変なことだと思います。
新酒鑑評会での金賞の数は、その年のでき具合で変化します。うまいものは、いくつあっても、うまいとして評価されるのですから、文句は無いのでしょう。その数が最近では200を越えるそうですから、全体のレベルが上がってきたのでしょう。
こうしたことを克明に調べている人(堀井秀治・塩田耕三の両氏)がおられて、お二人のまとめられた資料から抜粋したのですが、ついでにいうと、四半世紀に金賞を受賞した回数が一番多い県は広島県で、続いて兵庫、新潟となります。
金賞が年間200銘柄を越えるとなると、我々凡人が評価する基準となれば、毎年のように金賞を受賞している品質が連続して良いものとなります。しかし、これが至難の技で、最近10回で7回以上金賞を受賞した銘柄となりますと、なんと23銘柄になってしまうのです。この連続受賞を全国の杜氏の方々が競っており、精米から麹作り、醗酵と多くの段階を入念に経て初めて得られるのですが、米の品質から、醗酵時の温度や天候、でき具合を考慮しておこなうために大変な努力が重ねられるのです。
杜氏とは、家作りでいえば、工務店のようなもので、夫々の腕の確かな職人さんをまとめ、うまく調和させて工程を推進することが大変なのだそうです。単なる勘や入念な経験などと簡単に表現してはいけないような芸術に近い世界があると思うのですが、それらを毎年のように発揮させるとなるとこれは大変なものです。
こうした勘の世界に、技術を導入したもので、全国にある酒造メーカの半分以上のところに採用されている特許をご紹介しましょう。
通風する空気を脱水しつつ麹の堆積層に送る特許です。特許第897507号(特公昭52-21600号)で1973年に木谷雅信さんによって発明されたものです。やや酸素不足で、やや湿度不足が製麹に適した環境であることを追及したものです。機械が専門家の腕を奪うものではなく、職人が一層光る技術だとの、この特許を実用化したハクヨーの社長である木谷光伸さんの言葉が印象に残っています。