「経済産業政策の新機軸」を成功させるための肝は何か(上)
各界から論議高まる新機軸
経産省がこのほど産業構造審議会(経産大臣の諮問機関)に提出した「経済産業政策の新機軸」は、各界から注目を集め様々な意見が出ている。産業政策への転換を訴えるのはいいが、大規模な財政支出が必要だとするなら、予算の分捕り戦略とも言えなくもないという見方もある。短期集中的に論議を深めるのはいいが、拙速になっては新機軸の意味が薄れてしまいかねない。
具体的な政策例として世界的にみた半導体をめぐる構造変化を分析し、日本の半導体製造基盤の確保と強化に向けた分析をして政策方向を示しているのは結構だ。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/028_02_00.pdf
新機軸は必要であり経産省の取り組みを歓迎する。だがこれを成功させるための肝は、一体どこにあり誰がやるのか。そこを間違えると失われた30年が戻ってくることはない。
半導体王国が消滅した真の原因は何か
日本は半導体王国として世界に君臨したのは、別表に見るように1980年代からである。1979年に刊行された『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(Japan as Number One: Lessons for America)は、ハーバード大学教授で社会学者のエズラ・ヴォーゲル博士が1979年にアメリカで刊行し、間もなく日本でも刊行されてベストセラーとなった。
戦後の日本経済の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営を高く評価していたものだが、筆者の感想を言えば、経営者と同時に勤勉で倫理観があって必死に家族と社会のために汗水たらして働いた日本人そのものを評価したものでもあった。社会学者のヴォ―ゲル博士は、間違いなくそのことを意識していたはずだ。
韓国北西部、京畿道平沢市にあるサムスン電子の半導体工場(ブルームバーグ)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/210518/bsm2105180603001-n1.htm
1986年の世界の半導体売り上げのトップ10のうち、日本企業が6社を占めている。しかもトップ3,オリンピックで言えば金、銀、銅を日本勢が占めている。産業競争の現場で、しかも産業発展の基盤技術になっている半導体産業で、日本は世界の覇権を握ったのである。
事実、アメリカの航空機、ミサイル、宇宙往復機(スペース・シャトル)など最先端技術に搭載されている機器類に日本製の半導体が組み込まれていると言われていた。アメリカの軍需技術、安全保障の首根っこを日本が抑えているとまで言われるようになった。
日本と日本人がこれで有頂天にならないわけがない。半導体を制するもの世界の産業界を制すと考えたものだが、これこそ思い上がりであったことがいずれ分かる。しかしそれまでには、20年かかった。
いやいまなお、過ぎ去った往時の夢を追いかけているだけで、そうなった真実に気が付いていない日本の政治家、官僚、大企業の経営者らがいるように感じている。日本の産業界をけん引するリーダーが、時代認識を持ちいま何が競争力を生み出す時代になったかを認識する必要がある。
産業の発展は、技術発展の上に構築されているものであり、後退することはない。中国と韓国がそれを実証的にみせてくれた。
(つづく)