コラム

「経済産業政策の新機軸」を成功させるための肝は何か(下)

時代が要請する産業政策論
経産省が産業構造審議会(経産大臣の諮問機関)に提出した「経済産業政策の新機軸」は、どのようなものか。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/028_02_00.pdf

冒頭に「問題意識」として次のように掲げている。
まず、コロナ禍など不確実性の高まり、先進国経済の長期停滞、デジタル技術を中心とした革新的な技術の進展、地政学/地経学リスクなど、世界は、大きく変化していることを示した。
中国、欧米においても、国民の生活と安全を確保すするため、大規模な財政支出を伴う強力な産業政策を展開している。アカデミアも、新たな産業政策論が急速に台頭してきた。
新たな産業政策は、新たな技術分野、戦略的な重要物資、規制・制度 などミッション志向となっている。この機会に、時代の大きな変化に合わせた「産業政策の新機軸」を確立し、実行していくことが求められているとしている。

「経済産業政策の新機軸」を打ち出した経産省

中国とアカデミアを取り上げる
戦後続いてきた日本の産業政策は、アメリカ追随に徹していたと言ってもいいだろう。先進技術開発では圧倒的優位に立っていたアメリカに追随せざるを得なかったからでもあるが、政策動向もアメリカを見ながら決めることが多かった。ところが、21世紀に入ってから急速に中国が台頭してきた。急速に実力を発揮できるようになったのは、1980年代から着々と国力の基盤を充実させてきたからである。
たとえば、知的財産強化の仕組みと行政・制度の取り組みでは、中央政府と特別市・省レベルの地方政府が一体となって積極的な組織作りを着々と積み上げてきた。特許・商標・意匠法などの改正だけでなく、知財の実務に結びつき実態に即した施策を徹底してきた。いま中国の知財制度は、司法も含めて日本のはるか先を走っていく状況になってきた。

大学教育と人材育成でも、大量の留学生をアメリカ、ヨーロッパなどの先進国に送り込み、先進学問と技術を習得させて呼び戻し、中国の産業技術の発展に寄与させた。AI(Artificial Intelligence)・IoT(Internet of Things)技術開発では、間違いなく世界トップクラスに躍り出ている。特に技術開発よりも実装に優れた機能を発揮しており、社会がまたこれを受け入れていく中国の独特な国民性が時代にマッチしていた。
こうした実態に合わせて、政策の新機軸として中国の産業政策を真っ先にあげ、産業政策論で新しい概念を打ち出してきたアカデミアの動向にも触れている。
戦後の高度経済成長期から世界の経済大国までのし上がった日本だが、往時の産業政策は積極的に打ち出す姿勢が見られたが、今回の新機軸を見ると往時の力強いものはなく、どうしても遅れ挽回の姿勢が見えるのも仕方ないことだろう。

中国の産業政策に学ぶこととは何か
中国の産業政策として「中国製造2025」を真っ先にあげている。それはさておき、中国共産党の一党独裁政権を支えているのは、地方から中央まで組み上げた有能な人材群である。かつて政界随一の中国通政治家として知られた元自民党幹事長の加藤紘一氏は、「次の中央政府幹部として躍り出てくる地方の有力な人材群と交流することで、中国の将来が分かる」と語り、省レベルの地方のトップクラスの人物とよく語り合っていた。
いま中国の産業政策を見るとしたらその中身ではない。政策実行力と継続性の手法である。施策実行力で中国に勝る国家は世界にほとんどないのではないか。特に人口14億人以上を擁する国家として強力な政策遂行力は最大のエネルギーである。
さらに中国は、継続性が半端ではない。国家目標を掲げてそこに注力する組織が出来上がっている。日本は、自民党一党独裁とよく言われるが、政権が変わると政策が中途半端な形でくるくる変わってきた。
中国に学ぶ政策は、研究開発ではないだろう。政策遂行と継続性をどのように担保するべきかを学ぶべきである。政治手法が違うという意見も出てくるが、そうではなく政治を動かす官僚機構をもう一度建て直す必要がある。二世三世議員で占められた政界には、将来を展望する政策は生まれない。行政にその役割が託されている。政策実行と継続性をどう担保するべきか。是非そこに期待したい。

米英主導のアカデミアの潮流
産業政策の産業政策では、21世紀型が台頭してきた。従来の巨頭学者の影はひそめて米英の少壮の学者6人を新機軸で紹介している。日本人学者がいないのだろうか。欧米の学問、学者の業績を紹介するだけの学問から抜け出し、自ら日本の国家と文化に関与した政策論を打ち出す気鋭の政策学者がいないのだろうか。
最後に我が国の産業政策の変遷を掲げ、産業政策の新機軸に言及しているが、積極的に取り組む勢いが感じられない。課題を羅列するのではなく、具体的な政府の取り組みをあげてほしかった。半導体製造基盤強化に向けての目標を書いているが、このような展望をより深く具体的に描いて示すことが経産省に求められていることではないか。行政機関としては難しいというかも知れないが勢いがあったかつての通商産業省はそのような踏み込みを見せていた。いま日本の行政機構が沈滞してはならない。

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