コラム

「経済産業政策の新機軸」を成功させるための肝は何か(中)

中国は日本から何を「学ぶ」のか
前回は過ぎ去った往時の夢を追いかけているだけでは、日本の産業衰退の真実に気が付いていないのではないかとの持論で締めくくった。筆者は「時代認識」という言葉を大事にしている。誰かが提起した言葉なのか自分で作った言葉なのか判然としないが、その意味するところは、端的に言えば時代の流れを的確に捉えて対処するという当たり前のことである。それを体現したのがお隣りの中国と韓国であると常々感じていた。

両国とも意識してそうなったとは考え難い。時代の流れでそうなっていったと理解している。しかしそこには、過去の成功体験などなく、自国を押し上げようとする推進力がものすごいエネルギーになって実現したものだろう。かつての日本もそうだった。目の前の課題を乗り越え、当面の目標を定めて達成していった。着実に成果が出ていたのである。

先日、中国の友人から、戦後の日本の産業政策について調べているので、意見を聞きたいという連絡があった。よくよく聞いて見ると、日本の戦後成功体験を学ぶのではなく、近年、特にこの20年間の日本の低落を教訓として「学び」たいというのが本音だった。日本の産業政策がなぜ失敗したかを知りたいという。それを教訓として中国の産業政策のマイルストーンを検討していきたいということのようだった。

聞いてびっくりした。日本の失敗を学び、中国のこれからの産業政策に生かしていきたい。日本の失敗を教訓とするという話であった。即座に思ったことは、日本には明確な産業政策などなかったし、政権が変わるたびに政策も小手先で対処するだけで肝の座った政策などなかったことだ。

政策立案はいいが実行力と継続性がない
日本は選挙で政権がくるくる変わる。するとそのたびに政策がふりだしに戻るので無駄が多いし、実行力が伴わなくなる。そのような宿命を背負った国であり、一党独裁政権が続く中国とは政治体制が違う。日中のどちらがいいか悪いかということではない。
科学技術行政は、継続性がないと不効率になる。これはどのような政治体制であっても同じである。自民党政権が続いてきたが、政権が変わると科学技術政策も変わってくることが多い。継続性が担保できない。日本はその点で極めて不利な国家となった。
中国のように一貫した視点と継続性のある政策決定と実行力、これこそが日本が学ばなければならない行政手法である。

21世紀型の科学技術行政はどういうものか
21世紀になって、従来型の工業技術の発展から大きく変革したIT産業革命の時代に突入した。従来の産業は、様々な技術を駆使して物質を加工して製品を作り上げた。しかし1990年代から始まったIT産業革命では、工業は電子化された設計技術とツールで発展した。日本は明治維新(1886年)以来、西欧の技術を導入してモノ作りで先進国の技術を真似して発展した。
ところがIT産業革命では、製造工程の基幹部はデジタル情報に置き換わった。CAD(Computer Aided Design)・CAM(Computer Aided manufacturing)・CAE(Computer Aided Engineering)などのソフトが設計・金型・製造ラインまで占めるようになり、日本の従来型製造技術と工程で蓄積した財産はほとんど役立たなくなった。
むしろIT産業革命になると、従来蓄積された産業技術は邪魔になり、電子技術の発展を邪魔する役割となって進展を妨害した。従来技術基盤がない方が、いきなりIT技術から出発するので効率がよくなった。なまじ従来技術財産をかかえている分、日本は不利に立たされた。

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キタムラ機械株式会社HPより:https://kitamura-machinery.co.jp/company/greeting/

実行力と継続性が脆弱だった
立派な政策は策定するが実行力が伴わなかった。政府の政策がどのように実行され成果を出したかその検証をする仕組みができていなかった。むしろ政策遂行をチェックしないような官僚意識がはびこっていた。
科学技術の研究開発や施策の実行は仮に、政権が変わっても継続性がないと効率が極めて悪くなる。21世紀になってから、日本の政権が短期間で変わることが多く、政策の継続性がなくなった。
安倍政権は長期政権となったが、科学技術に対する視点は非常に弱く、世界が発展しているとき日本は逆に後退した。それは政権中枢に科学技術発展を理解するスタッフが少なく、発言力も小さかったからである。

日本人の気質はお上の言うことを待っている。日本人は江戸時代から支配者の言うことを聞いて行動をするという意識で支配されてきた。世界の変革に合わせて自ら素早く変わっていく企業文化が薄く、政策を見てから動き出す意識が強くなっていた。
業界を政府が指導することが主流となり、官僚の天下り文化がはびこった。このため政策決定と企業活動は他力本願となり世界の実態の中で遅れてしまった。
現在進行中のDX(Digital Transformation)でも、経産省が企業を指導するという形になっており、企業が先端を走って社会が変わっていくという形にはなっていない。世界の動向を見た政府が、企業に世界の変革を伝えて変えようとする後進国スタイルになっている。

古い因習に支配された日本社会
日本では、終身雇用制が強固にあり、それが産業発展に大きな力となった。いったん就職した企業では、定年まで働くことが美徳であり、働く場所・企業がくるくる変わる人は、劣等生とみなされてきた。
大企業志向が強くあり、そのために有名大学を目指し、安定した人生を求めてきた。これは日本の戦後発展の原動力にもなっていたが、世界の変革によって今は不利な社会現象になってきた。
社会の価値観が変わり、人々の行動規範も激変しようとしている。新しい社会の価値観が成熟して基盤を作り、国全体に行き渡るまでには、最低でもあと20年かかるだろう。それまでこれまでに蓄積された日本の産業財産が持ちこたえることができるかどうか。若い世代が全く違った日本の国家像をつくる時代に入っている。
前置きが長くなってしまったが、こうした前提を考えながら「経済産業政策の新機軸」を次回で検証してみたい。

(つづく)

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