コラム

「特許もノーベル賞も同じ価値」を証明した本庶先生の受賞(下)

免疫機能を復活させた本庶業績
本庶先生のノーベル賞は、免疫細胞の表面にあるたんぱく質PD-1を1992年に発見して特許出願したことから始まる。この発明は特許査定され、「プログラムされた細胞死に関連した新規なポリペプチドおよびそれをコードするDNA」という発明の名称で特許3454275として登録されている。免疫の機能を解明した発見であり、
歴史的な特許である。
そしてがん細胞は、このPD-1に結合するPD-L1と名づけられたたんぱく質を作り、免疫機能を抑制することを発見した。

これでは体内で発生した異物のがん細胞を免疫細胞が攻撃して無毒化する作用もなくなってしまうからがん細胞は際限なく増殖していく。それならば、PD-1とPD-L1が結びつくところをブロックすれば、免疫機能はなんの問題もなくがん細胞を攻撃してくれる。

このブロックする物質を見つけてがん患者に投与すれば、免疫力は衰えずに復活してがん細胞を攻撃して生体機能を維持することが出来る。これまでの大半のがん療法は、がん細胞そのものを手術で除去したり、放射線を照射して死滅させたり、抗がん剤などの薬剤を投与していた。それを生体がもともと持っている免疫という防御機能を復活させてがん細胞を退治する。これこそ理想的ながん療法だと思いついた。

こうして免疫機能を復活させることでがん療法を切り開くことが、がん治療の大きなステップとなることを予感させる受賞でもあった。

日本の伝統的な免疫療法を発展させる
このようにがんの免疫療法は、理論的には理想的な治療法だが、決定的な方法はなかなか見いだせなかった。しかしこの療法の先駆けになったのは、日本人の科学者たちだった。本庶先生のノーベル賞業績も、こうした先人の業績の先にあったのである。

慶應義塾大学薬学部共同研究員(元教授)の八木澤守正先生の話によると、日本初の抗生物質・カナマイシンを発見した梅澤濱夫博士の研究グループは、1976年、微生物化学研究所で発見されたベスタチン(Bestatin)が細胞毒性を示さず免疫調節作用を介してマウスの移植癌の増殖を阻害することを確認した。

そこでこれを発展させればがんの免疫療法につながるのではないかと考え、微生物が産生する物質から免疫調節物質を発見し、これをがん患者に投与することでがんを攻撃する免疫力を復活させるのではないかと考えて共同研究を開始した。

こうした臨床研究を経て生まれたのが、日本で最初の免疫療法の薬剤だった。1987年6月に一般名ウベニメクス(Ubenimex)として発売された薬剤こそがんの免疫療法を開拓した最初の薬剤となった。オプジーボ療法ほど効果の広がりはなかったが、今でもこの免疫療法は活用されている。

小野薬品と共同で開発へ
本庶先生らは、2002年に動物実験で効果があることを確認し、共同研究者の小野薬品と共同で特許を出願
した。小野薬品工業は、共同で薬剤を開発する企業を探したが、国内外の11社に断られたという。
そこで本庶先生はアメリカのベンチャー企業と共同研究の交渉を行い、アメリカのメダレックス社が小野薬品工業とパートナーになることを実現した。その後同社は、大手のブリストル・マイヤーズスクイブ社に買収されるが、創薬の研究は順調に経過して免疫療法の創薬に成功した。

創成国際特許事務所会長の佐藤辰彦弁理士によると、本庶先生はこれまで発明者として20件の特許を出願し、小野薬品工業とは17件の特許を取得しているとしている。

このうち基本特許とみられるのは、発明の名称「免疫賦活組成物」、特許番号は「4409430」である。
発明の名称にズバリ、免疫を賦活させる物質の発明であることを示しており、これぞ歴史的な発明であることが分かる。

小野薬品工業本社

特許期間の延長で収益増大か
この特許は、出願が2003年7月2日になっている。権利は出願から20年なので2023年7月2日には消滅することになるが、新薬の開発は臨床治験や製造承認までに時間がかかることから特例として特許権利の存続期間は
5年間の延長が認められている。これを適用すれば2028年まで存続することになる。

本庶先生の基礎研究の成果が創薬、しかも抗がん剤というもっとも期待の大きい創薬に結びつき、これがノーベル賞受賞に結びついた。しかも免疫機能を復活させてがん治療を行うという生体の機能を利用するがん治療だから理想的である。

本庶先生の受賞を聞いて感じたことは、ノーベル賞選考委員会は実用化に結びついて世の中に貢献することをかなり重視しているように感じた。つまり原理原則の発明・発見だけではノーベル賞にはなかなか届かない時代になった。その発明・発見がどのくらい世の中で役立っているかが授与する尺度になってきたようだ。

21世紀に入ってから産業技術に近い成果にノーベル賞を出すようにシフトしてきているようだ。意識してノーベル財団が方針を決めているのではなく、科学技術の進展、学問の成熟によって基礎研究の成果がすぐに実用化に結び付く時代に入ったからだ。

むろん、純粋な学問的成果にもノーベル賞は出ている。ニュートリノ関係のノーベル賞はまさにそれである。世の中には役立たない発見でも学問的な価値が高いことを認めて授与している。
こうした動向を見ると、これからも日本人受賞者の実現にはそれなりに期待できる。同時に中国人の受賞者もある時点から急激に増加するだろう。

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