コラム

「日本の知財は危機的状況にある」と警鐘を鳴らした中村嘉秀氏

「日本の知財は危機的状況にある」と警鐘を鳴らした中村嘉秀氏

知財部門の地位低下が進んでいる
先ごろ開催された「東京理科大学IPフォーラム2016」は、内外のトップクラスの知財専門家が参加して知財制度に関する発表と討論が展開された。知財の法的問題と制度についての討論が多く、実務に役立つものは少なかった。

しかしその中でも注目を集めたのは、「日本の知財は危機的状況にある 知財戦略は経営トップの仕事」のタイトルで発表したアルダージ株式会社代表取締役社長の中村嘉秀氏の講演だった。

 

中村氏は、知的財産戦略は国家的課題になっており、その重要性に異論を唱える経営者はいないとしながらも、いま「知財部門の地位低下が進んでいる」として次のような現象をあげた。

•日本特許の出願件数は次第に減少傾向
•外国への出願は年々増加傾向
•特許訴訟の件数も日本は米国、中国に比べ極端に少ない
•判決で得られる賠償金も極めて些少
•日本で訴訟をすることに魅力がない
•知財のジャパンパッシング(Japan Passing)は今や明白
•経営者は日本の知財に価値を見出してない

筆者は、特定非営利活動法人21世紀構想研究会の知財委員会で多くの会員と定期的に研究会を行っているが、そこで討論されている内容も中村氏が掲げた課題とまったく同じものであった。

日本の知財現場は、間違いなく地盤沈下を起こしているという認識である。多くの大企業は、そのような認識は持っていないようだが、中小企業、ベンチャー企業などの知財停滞と上場企業にあっても中堅企業の知財意識は極めて沈滞しているという認識である。

中村氏は、こうなった理由を次のようにあげている。企業の知財部門のスタッフは、「出願件数、収入金額のみを誇示し、 経営、事業に資する活動を怠ってないか?」という疑問である。さらに「事業あってこその知財なのに、知財のみに頼る方向に進んでいないか?」とする指摘である。

そうなったのも知財スタッフは自らの存在意義を知財の様々な「手続きのプロ」に徹することに求めており、「どうせ経営陣は判ってくれないというあきらめの境地に入ってないか?」と問題を投げかけた。

何が知財に欠けているのか
日本の経営者は、口を開けば経営の柱の一つに知財戦略をあげるが、その割に経営方針がともなっていない。いわゆる一流企業のトップにインタビューすると、ほとんどの経営者は知財戦略の重要性を口にはするが、本心からそう思っているかどうか疑問である。中村氏も同じことをあげている。

中村氏は「経営者は、短期的採算は気にするが長期的事業戦略や競争には気が回らない。開発、事業、知財の三位一体こそ競争力の源泉である」のだが、そのことの認識が薄いと指摘する。

さらに「戦略構築を専門部署に丸投げし、経営トップのみがその構築が出来る立場ということを忘れている。社外への特許料の支払いの多さを嘆き特許料収入増加を期待する」と指摘した。

中村氏は、ソニーの知財部門のトップを務めた方であり、知財の実務を知り尽くしている。

世界を見渡せば、Apple、Google、Amazon、Microsoft、Qualcomm、Intelなど、知財戦略がそっくり事業戦略になっていることをあげた。さらに日本でもかつては、ソニーのプレイステーションやCD事業、任天堂のファミコン、日本ビクターのVHS事業なども同じだったと振り返った。日本企業でも知財戦略があったのである。

知財戦略経営の必要十分条件とは何か
知財戦略を企業で展開するには、どうしたらいいか。中村氏は次のような課題をあげている。

•経営者は真剣に時代の流れを読み事業戦略を考えているか。
•過去の延長線上に必死になって解を求めようとしているのではないか
•より良い技術さえあれば利益を生むはずだと考えている節はないか
•経営戦略を他人任せにしてどこかの後追いをしてリスクも利益も無い方ばかり選択していないか
•他社への特許料支払いの多さを嘆かれてないか
•発売前、発表前になって初めて知財に声がかかる状況ではないか
•専門用語、業界用語を駆使して話していないか
•会社の方向性、開発の動向を十分把握しているか
•業界の動き、競合他社の情報取得に努力し金を使っているか
経営者はどれもこれも、思い当たる節があるのではないか。
日本の多くの企業は、戦後の高度経済成長期を経てIT産業革命へと突入して大きな変革に迫られている。日本型の終身雇用制度を維持しながら、技術革新と後進国も追いついてきた熾烈な競争の中で安定経営を維持するのは並大抵のことではない。

しかし、現実はドラスティックに対応しなければ生き残れないことをシャープが鴻海精密工業に買収されたことでも明らかである。中村氏は、経営トップにどうすれば知財マインドを持たせることができるかについてもいくつかを提示した。
知財の専門家として日本の企業社会の最も弱い点を衝いたものであり、刺激的でありながら真実を語った発表だった。

東京理科大学のIPフォーラムの他のプログラム内容は以下の通りである。

「米国訴訟における NPEー継続する挑戦」米国連邦巡回区控訴裁判所 Randall Rader前主席判事

「米国におけるNPE訴訟の現状 -課題、機会、今後の展望」 Frommer Lawrence & Haug法律事務所 Porter F. Fleming弁護士、Eugene LeDonne弁護士

「ドイツにおけるNPE訴訟 -新たな挑戦あるいは通常の訴訟?」 Prof. Dr. Peter Meier-Beck(ドイツ連邦共和国最高裁判所民事第10部部統括判事)

「ドイツおよび欧州における対抗手段 -異議・無効化手続」 Christian W. Appelt弁理士(Boehmert & Boehmert法律事務所)

「欧州統一特許の展開を踏まえたNPE対抗特許訴訟戦略」 Prof. Dr. Heinz Goddar弁理士(Boehmert & Boehmert法律事務所)

「日本における知財訴訟 -標準必須特許とNPE」 知的財産高等裁判所 設樂 隆一 所長

「日本企業にとっての課題と対策」 長澤 健一 氏(キヤノン株式会社 取締役・知的財産法務本部長)、中村 嘉秀 氏(アルダージ株式会社代表取締役社長)、(モデレーター:荻野 誠 東京理科大学教授)

「三極知財裁判官鼎談 -NPE訴訟」 設樂 隆一 所長、Prof. Dr. Peter Meier-Beck部統括判事、Randall Rader前主席判事

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