コラム

日本を追い抜いた中国の科学技術研究と知財制度 (その3)

ビッグサイエンスの躍進
中国の科学技術力の躍進の指標として使いたいのは原子力・宇宙・海洋開発など国家が一体となって取り組むビッグサイエンスの進展ぶりだ。中国共産党一党独裁国家の利点を生かした政策取り組みであり、戦後、日本が営々と築いてきたこうした分野をあっという間に抜き去ってしまった。

世界をリードする原子力開発
中国の原発はいま、37基が稼働中で、建設中が20基、計画中が286基である。世界の先進国では脱原発志向が強まっているが、後発国の中国はまさに原発の先端を走っているような状況だ。

中国のすごいところは、原発技術を次々と発展させていることだ。世界最高基準の技術とされる華龍1号の開発をはじめ、日本ではナトリウム炉の「もんじゅ」で失敗した高速増殖炉では、トリウム炉を採用し、上海と江蘇省に建設を予定している。

このほかにも高温ガス炉(60万kW)は山東省で2018年実証炉を着工予定している。第4世代の原子炉と言われる進行波炉の開発にも取り組んでいる。いまよく使われている加圧水型原子炉や沸騰水型原子炉では、燃料に濃縮ウランを用いているが、進行波炉はウラン濃縮過程で多く発生する廃棄物の劣化ウランを用いることができる新型炉である。

核燃料サイクルでも加工、ウラン濃縮、再処理、廃棄物処理、核変換などどの分野でも積極的な研究開発に取り組んでおり、もはや日本を追い抜いて行ったという見方が出ている。

世界の原子力発電の長期的展望(百万KW)

出典:「平成21年版中国の科学技術力について(ビック・プロジェクト編)よりJST/CRCCが作成

打ち上げ能力でアメリカを抜いた宇宙開発
中国での原子力と宇宙開発は、軍事力増強技術に直結するだけに国家の最優先技術開発と位置付けている。別表にあるようにロケットの打ち上げでは、日米欧ロシアと肩を並べる間もなく、アメリカをも抜いていった。

現在開発中のロケットの「長征9号」は、15年以内に打ち上げる計画というが、その打ち上げ能力は約100トンと発表されている。今や中国は、有人月探査、火星サンプル回収、太陽系惑星探査などを視野に入れた開発に取り組んでおり、文字通り世界トップの宇宙大国へと駆け上がろうとしている。

中国の宇宙開発技術力が評価されているのは、打ち上げ成功率の高さにもある。「長征」シリーズは、1970年から235基打ち上げているが、2017年、2018年に19機打ち上げて成功率は約95パーセントであり、他の国とほぼ同じ成功率である。

人工衛星技術でも次のような実績を誇っている。
2016.4 微小重力実験衛星「実践10号」打ち上げ成功
2016.6 資源探査衛星「資源3号」打ち上げ成功
2016.7 気象衛星「風雲」など今後10年で14機打ち上げの計画
2016.8 量子科学実験衛星「墨子」打ち上げ成功
2016.8 地球観測衛星「高分3号」打ち上げ成功

航行測位衛星システムの「北斗」は、2020年までに30機を打ち上げるが、部品の自国調達率は98パーセントになっている。技術力も上がる一方であり、精度は10メートルと言われていたが、いずれ数センチ級の精度を出すと言われている。
一帯一路の沿線国にはサービスを提供すると表明しており、中国は8兆円の測地衛星産業を育成しているという。

視野に入ってきた月面探査計画
中国の月探査計画の第1フェーズは2013年の「嫦娥3号(玉兎号)」である。中国初の月面軟着陸に成功し、多彩な成果を取得した。日本では詳しい報道がなかったのは、中国の情報開示が十分でなかった点もある。

この調査の成果として中国は、月の水分は極端に少ないことを初めて発見したと発表。月表面の地層調査では、25億年前まで活発な火山活動を行っていたことも突き止めたと発表している。
月から送ってきた画像データは、18万7000枚にのぼり、地球の画像データも 1300枚を撮影している。

第2フェーズは、2015年から2025年までであり、月面への有人着陸を目指すとしている。
2018年5月21日、中国国家国防科技工業局と中国国家航天局は、月探査機「嫦娥4号」の中継衛星「鵲橋号」を搭載した「長征4号Cロケット」が四川省の西昌衛星発射センターから打ち上げたと発表した。
http://www.afpbb.com/articles/-/3175380

「鵲橋号」は地球と月の引力が均衡するラグランジュ点L2の軌道に投入され、年末打ち上げ予定の「嫦娥4号」のために地球と月の裏側との中継通信を行う。 「嫦娥4号」は月の裏側に着陸 低周波天文観測、地質調査などを行う。

2019年には「嫦娥5号」を打ち上げる予定であり、月面で2キロのサンプルを採取して地球に持ち帰る。この採取によって、月の起源、衝突の状況、マグマオーシャンなどの調査を行うという。
中国は、すでに周回、着陸、帰還の技術を確立したと評価されている。
そして第3フェーズは、2025年から2030年にかけての月面有人基地設置である。これまで有人宇宙活動では、2003年10月から「神舟」5号、6号、7号、9号、10号で計12人が船外活動をしている。
また宇宙ステーションでは、2010年に無人宇宙実験室「天宮1号」を打ち上げ、宇宙ステーションを構築した。

2012年には、「神舟」9号(3人の宇宙飛行士)が、「天宮1号」とドッキングに成功した。
2013年には、「神舟10号」(3名宇宙飛行士)は宇宙授業を行って話題を呼び、2016年には、「神舟11号」と「天宮2号」が有人ドッキングに成功している。2022年に中国の宇宙ステーションを完成するとしている。

海洋開発でも日本を抜いた
中国で開発された海洋調査船で有人潜水艇「蛟竜号」は、最大深度は7000メートルで世界トップである。2012年6月に、7000メートル超の潜航を成功させたと発表されている。

蛟竜号は中国が科学技術の強化政策「863計画」の一環として、開発された深海調査船である。2010年から試験潜航を開始しスタートし、まず3700メートルの潜航に成功、2011年に5000メートルにも成功し、ついに2012年6月に7062メートルまで潜ることに成功した。

日本の「しんかい6500」は、ほぼ20年間世界最深潜航の記録を持っていたが、蛟竜号の7000メートル潜航が、それを抜き、世界最深に到達した。
なお、「蛟竜」の原義は、空想上の生き物で、竜として成長する前の幼い竜のことである。

 

NHKの放映から

(つづく)

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