コラム

民主主義国家の実現を求める人口比例選挙請求訴訟

165回目の人口比例選挙の請求訴訟
高市自民党が大勝した2026年2月の衆院選の選挙区の有権者数が、人口比例になっていないのは憲法違反として行政訴訟が起こされている。
さる4月28日、東京高裁でこの訴訟の口頭弁論が行われた。

この人口比例選挙の請求訴訟は2009年から全ての衆参選挙後に提訴され、これまで高裁で164個、最高裁大法廷で10個、同小法廷で1個の判決を得ている。
しかしその全てが、原告側の請求する「憲法違反、選挙無効(違憲無効)」は退けられた。

戦後民主主義はいまだ未完成
日本が1945年8月にポツダム宣言を受諾して終戦を迎え、主権は天皇から国民に移動した。
しかし「これは誤りです」と、この訴訟の代理人である升永英俊弁護士は言う。

「これは8月民主主義革命(宮沢俊義東大教授の説)とも言われ、そこにとどまったままであり、いまだ未完成の民主主義である」「主権が天皇から国会議員に移動してとどまったままであり、いまだ国民主権になっていない」と指摘する。

日本では、国政選挙の過半数の得票とは関係なく、国会議員が国会で過半数の表決で内閣総理大臣を決定し、ほとんどの法案を成立させてきた。
例えば2024年の衆院選(投票率54%)では、与党の自公の得票率は約40%に過ぎなかった。
しかし内閣総理大臣を決めたのは、議員の多数決で自民党から選出された。

このようになるのは、衆議院では選挙区によって有権者数に2倍前後の格差があり、参議院でも全国45の選挙区間で1議席当たり有権者数に3倍を超える差が生じるなど、投票価値がでこぼこで公平でないからだ。
有権者が平等な選挙区から選ばれた国会議員の多数決によって首相が選ばれ、法案が成立するなら、国民は間接的に主権を行使したことになる。

しかし不平等な投票価値で選ばれた国会議員が選んだ首相は、国民の総意とは関係なく「議員が選んだ議員主権」の首相選挙になる。
原告は「投票価値の不平等(1票の格差)は違憲であり、選挙無効である」との提訴を続けてきた。

日本列島にばらついている不平等選挙区
日本の選挙区の有権者数は、均一平等ではなく衆院選では2倍以上、参院選では3倍以上の格差が存在する。
地方の選挙区は有権者が少なくて大都会は多い傾向はあるが、必ずしもそうでもなく、格差が適当にばらついて存在している。
そこから投票価値の不平等(1票の格差)は違憲であるという強い主張が生まれた。

2009年に升永、久保利英明弁護士が原告代理人になって選挙制度を平等にする人口比例選挙を求める行政訴訟を全国の高裁で起こした。
後に伊藤真弁護士が加わり、衆院289小選挙区、参院45選挙区を対象に、衆参選挙終了後に原告を立てて各地域の高裁に訴えてきた。
 
これまでの最高裁の判決内容を読むと
衆院選挙区の有権者数の格差問題を調べてみると、筆者が読売新聞記者として選挙報道に関わった1970年代は、4~5倍の格差があり、問題化し始めていた。
それが1980年代には3~4倍に是正され、2000年前後から改革が進み2~3倍になった。
2010年代から人口比で均等に選挙区割りを定めるアダムズ方式が導入されたが、それでも2倍前後の格差があり現在に至っている。

これまでの判決を読むと、裁判所の判断は「2倍」にこだわっているように見える。
都道府県単位を守り、地方の代表制を確保するという観点から完全な平等は無理であり、地理的状況、行政区、歴史などを考慮すると2倍までなら許されるという判断ではないかと推量する。

諸外国はどうなっているか
では世界の先進国はどうなっているのか。
米英独仏韓の5か国の制度を調べた升永弁護士によると、英独は日本と同じ議院内閣制だが、米仏韓は大統領制であるので完全な人口比例選挙で国家元首を選んでいる。

英独日は、国会議員の選挙によって首相を選任しているので、間接民主主義として「議員の選挙は人口比例選挙が要件となっている」と升永弁護士は語る。
久保利弁護士は「英独も2023年にその選挙制度を達成した。今や日本だけが異質であり、世界水準の人口比例選挙から取り残されており、民主国家とはみなされない。選挙区によって1人が2票、3票の価値を持つ国家を民主国家と呼べないのは当然だ」(4月28日の東京高裁の弁論)と主張している。

4月28日の東京高裁の人口比例選挙請求訴訟の弁論で原告が主張した内容

25年参院選判決で風向きが変わったか
2025年7月に行われた参院選後にも原告グループは16高裁・高裁支部に「憲法違反、選挙無効」を要求して提訴している。
この参院選・選挙区の一議席あたりの有権者数の多い(つまり1票の価値が軽い)都府県と、有権者の少ない(1票の価値が重い)県のトップ10をまとめると次のようになった。

なお、参院選挙区は高知・徳島と鳥取・島根が合区となっているので45選挙区になっている。

出典:選挙ドットコム https://go2senkyo.com/sangiin/20376
各選挙区ページの「有権者数」、「定数」から作成

表を見ると分かるように、福井県では約61万6千人の有権者数だが、神奈川県では約192万8千人と3倍を超える有権者数の格差になっている。
この高裁訴訟の判決は昨年暮れまでに出た。
いずれも原告の請求は認められなかった。
原告側は上告して最高裁でいま審理中である。
しかし高裁段階では大きな変化が見られた。  

高裁判決を読み解く
2025年参院選の訴訟に対する16の高裁判決の内容を、升永弁護士が次のように解説した。
1. ①福岡(但し、『憲法は投票価値の平等を要求する』旨の判示を含む)、②仙台(同)、③広島(補助参加)(同)、④札幌(同)、⑤広島高裁岡山支部(同)、⑥仙台高裁秋田支部は、「本件選挙が正当な選挙であることに疑問符が付く」と明言した。
2. 東京、福岡、仙台、広島(補助参加)、札幌、広島高裁岡山支部の各高裁は、「憲法は投票価値の平等を要求する」と明言した。

これは裁判所の判断の風向きが変わった判決だ。
この高裁判決を受けて最高裁が最終的に判断することになる。
最高裁大法廷判決が出るのは、この秋の10月ころになるが、高裁判決で当選した議員は正当に選挙された議員と言えるかどうか疑問が指摘されており、升永弁護士は「いまの議員は、憲法改正の国会発議に投票する資格を欠くと解される」としている。

新たに加わった違憲主張
2026年2月の衆院選についても原告グループは、全国の16高裁に訴訟を起こしている。
その口頭弁論が始まっているが、違憲主張の中に新たな主張が追加された。

「過疎地同士で2倍の較差(格差)があるのは合理性がない」との主張である。
これは原告の1人である鶴本圭子さんが、全国の選挙区の登録有権者数を調べているうち、重大な格差が存在することを発見したものだ。
福岡5区内の東峰(とうほう)村と、鳥取1区内の八頭(やず)町の有権者数を比較すると、東峰村は0.5票の価値しかなく、八頭町は1票の価値だった。
同じ過疎地でありながらこの格差は合理性がない。
新たな主張として加わった。

4月28日の口頭弁論の後の記者会見で説明資料として掲出された
過疎地同士の2倍較差(格差)の事例

直面する国難と主張する原告側 
升永・久保利・伊藤弁護士が主導する原告グループの主張で極めて特徴的なのは、この訴訟は国難を超えるものと位置づけている論点だ。
例えば世界のGDPの日本のシェアは、1995年から2023年までの間、18%から4%まで激減した。
1992年から2020年までの国民一人当たりの平均賃金は、横ばいで推移しており、さらに下降する危機に立ち至っている。
「その原因が非民主主義国家となっている日本の選挙制度にある蓋然性(確実性の度合い)はすこぶる高い」と主張している。

原告側が「国難」と語っているのは、一般的な災害や戦争ではなく、憲法秩序が崩れて国家体制が脆弱になっていく危険状態を指していると理解した。
戦後日本が築いた三権分立の国家体制の中で、最高裁大法廷がどのような判断を下すのだろうか。

先の衆院選の人口比例請求訴訟口頭弁論について会見する原告弁護団
(さる4月30日、司法記者クラブで)

憲法で役割を規定されている裁判官と最高裁
裁判官と最高裁は違憲立法審査権の役割を憲法で定められていると主張し、根拠として升永弁護士は次の3つの条文をあげた。

日本国憲法
第76条の3項 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。    
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

裁判官は独自の判断で、違憲かどうかを決めることが出来る。
それを升永弁護士は「裁判官は、憲法を守るゴールキーパーの仕事をすべく、義務付けられている」と語る。

違憲状態判決の理由
この訴訟では、過去2回、最高裁大法廷は「違憲状態」判決を出している。
違憲無効としなかったのは、国会が選挙区割りを変えるには調整も時間も必要であり直ぐには実現できないとし、「合理的期間内に是正されていないとは言えない」として無効判決としなかった。

また別の大法廷判決では「無効判決の結果、議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないなど、一時的にせよ憲法の予定しない事態になる」とし、これを「不都合の事情」と判断して「違憲無効」とはしなかった。

その後衆参ともに選挙区割りや定数が変わった。
衆院選は中選挙区から小選挙区・比例代表制になり、参院選は選挙区選出・比例代表制になった。
憲法では「両院は、各々の議員定数の3分の1(1/3)以上の出席がなければ議事を開き議決することができない」(憲法56条1項)と定めている。

違憲無効となっても議事に支障なし
しかし現行参院選の制度では、選挙区選出議員が0人になっても、比例代表選出議員が100人存在するので3分の1以上になる。
したがって違憲無効判決になっても、参院の議事定足数の83人を超えており、支障は何もないというのが原告側の主張である。

最高裁がこれまで「違憲無効」判決を出せない理由は、今回の原告側主張でことごとく「解決」しており、無効判決を出さざるを得ない状況になっている。
今秋の判決で今度こそ、違憲・選挙無効を出すのではないか。
司法の独立した役割が明確に分かる判決が出るかどうか注目したい。

 

fbシェア xポスト

Contact

まずはお気軽にお問合せください

受付時間:平日9:00〜17:00 03-5281-5511 03-5281-5511
お問い合わせフォーム