コラム

最高人民法院、「民事事件案由規定」を改正

馮超 森康晃 王薇
泰和泰(北京)法律事務所

2025年12月17日、最高人民法院は、改正後の「民事事件案由規定」を正式に公布し、本規定を2026年1月1日より施行することを決定した。
これは、同規定が2008年に施行されて以来、三度目となる重要な改正であり、新時代における民事紛争の新たな特徴に対応し、経済・社会の質の高い発展に資することを目的とするものである。
また、本改正は、当事者による民事訴訟の提起を一層容易にし、人民法院における民事事件の立案、審理および司法統計を規範化するとともに、民事裁判の質と効率の向上を促進し、さらに民事司法手続全体の運営を一層規範化することを趣旨としている。

知的財産に関連する案由については、今回の改正により、データおよびネットワーク上の仮想財産に関する案由が初めて導入されるとともに、知的財産および競争紛争に関する案由の体系的整理および細分化が図られた。
主な内容は以下のとおりである。

1. 第一級案由として新たに「第六部 データ・ネットワーク仮想財産紛争」を設け、その下に第二級案由として「十七、データ紛争」および「十八、ネットワーク仮想財産紛争」を新設した。
新設された第二級案由「十七、データ紛争」の下には、「199.データ権属紛争」「200.データ契約紛争」「201.データ権益侵害紛争」を追加した。
また、第二級案由「十八、ネットワーク仮想財産紛争」の下には、「202.ネットワーク仮想財産権属紛争」「203.ネットワーク仮想財産契約紛争」を新たに設けた。

2. 第二級案由「十三、知的財産契約紛争」の下において、「148.専利契約紛争」を、「152.特許契約紛争」「153.実用新案契約紛争」「154.意匠契約紛争」に変更した。

3. 第二級案由「十四、知的財産の権属・侵害紛争」の下において、第三級案由として「166.地理的表示侵害紛争」「170.標準必須特許紛争」「180.医薬品特許リンケージ紛争」「184.植物新品種権無効宣告後の費用返還紛争」「185.集積回路配置設計専有権取消後の費用返還紛争」を追加した。
また、「160.専利権の権属・侵害紛争」を、「167.特許権の権属・侵害紛争」「168.実用新案権の権属・侵害紛争」「169.意匠権の権属・侵害紛争」に変更した。

4. 第二級案由「十五、不正競争紛争」の下において、「194.プラットフォーム運営者による強制的低価格販売紛争」「195.優越的地位の濫用による中小企業代金未払紛争」を追加した。
あわせて、「179.景品付き販売紛争」を「190.不正な景品付き販売紛争」に変更し、「177.低価格ダンピングによる不正競争紛争」「178.抱き合わせ販売による不正競争紛争」を削除した。

5. 第二級案由「三十五、不法行為責任紛争」の下から、「369.ネットワーク不法行為責任紛争」を削除した。

6. 第二級案由「四十九、知的財産侵害の訴前差止申立事件」の下において、「473.訴前における技術秘密侵害差止申立」「474.訴前における営業秘密侵害差止申立」を新設した。
また、「425.訴前における専利権侵害差止申立」を、「465.訴前における特許権侵害差止申立」「466.訴前における実用新案権侵害差止申立」「467.訴前における意匠権侵害差止申立」に変更し、「430.訴前における集積回路配置設計専用権侵害差止申立」を、「472.訴前における集積回路配置設計専有権侵害差止申立」に変更した。

7. 第三級案由「186.模倣紛争」の下において、「(2)他人の一定の影響力を有する企業名称、社会組織名称、氏名を無断使用する紛争」を、「(2)他人の一定の影響力を有する名称、氏名を無断使用する紛争」に変更した。
また、「(3)他人の一定の影響力を有するドメイン名の主要部分、ウェブサイト名称、ウェブページを無断使用する紛争」を、「(3)他人の一定の影響力を有するネットワーク活動識別標識を無断使用する紛争」に変更した。

8. 第三級案由「193.ネットワーク不正競争紛争」の下において、「(1)適法なネットワーク製品またはサービスの妨害・破壊紛争」「(2)データの不正取得・使用紛争」「(3)プラットフォーム規則を濫用した悪意ある取引紛争」を追加した。

9. 第三級案由「196.独占協定紛争」の下において、「(3)独占協定の成立を組織または補助する紛争」を追加した。

10. 第三級案由「197.市場支配的地位濫用紛争」の下において、「(7)その他の市場支配的地位濫用紛争」を追加した。
また、「(1)独占的価格設定紛争」を「(1)不公正価格紛争」に、「(2)略奪的価格設定紛争」を「(2)原価以下販売紛争」に、「(5)抱き合わせ取引紛争」を「(5)抱き合わせ販売またはその他不合理な取引条件の付加紛争」に変更した。

11. 削除された第三級案由「369.ネットワーク不法行為責任紛争」の下にあった「(1)ネットワークによる仮想財産侵害紛争」を、新設された第二級案由「十八、ネットワーク仮想財産紛争」の下の第三級案由「204.ネットワーク仮想財産権益侵害紛争」として移行した。

12. 本改正では、さらに、第三級案由「152.特許契約紛争」「153.実用新案契約紛争」「154.意匠契約紛争」「167.特許権の権属・侵害紛争」「168.実用新案権の権属・侵害紛争」「169.意匠権の権属・侵害紛争」「170.標準必須専利紛争」「171.植物新品種権の権属・侵害紛争」「172.集積回路配置設計専有権の権属・侵害紛争」「179.知的財産非侵害確認紛争」「181.知的財産の仮処分申立に起因する損害賠償責任紛争」「183.専利権無効宣告後の費用返還紛争」の下に設けられた第四級案由についても修正が行われた。

以上の改正内容から明らかなとおり、今回の「民事事件案由規定」の見直しは、知的財産、デジタル経済および関連分野において、案由体系の体系化および精緻化が一層進展していることを明確に示している。
特に、「データ・ネットワーク仮想財産紛争」を独立した類型として新設し、具体的案由を細分化した点は、デジタル経済を背景とする新たな民事上の利益関係について、明確な手続的枠組みを提示するものであり、関連紛争の立案および審理段階における識別性および規範性の向上に資するものと評価できる。

また、専利契約紛争および専利権の権属・侵害紛争の細分化、ならびに標準必須特許や医薬品特許リンケージといった高度な専門性を有する案由を個別に設定した点は、知的財産紛争の専門化・複雑化という司法実務の動向に対する制度的対応を的確に反映している。
さらに、不正競争およびプラットフォーム関連紛争について、ネットワーク不正競争、プラットフォーム運営行為および優越的地位の濫用に関する案由構成を調整したことにより、案由体系は現実の市場競争の実態により即したものとなり、行為類型と法的評価との対応関係を一層明確に示すことが可能となったといえる。

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