潮流 (No.101)

馬場錬成

2018.10.12

「特許もノーベル賞も同じ価値」を証明した本庶先生の受賞(上)

今年のノーベル生理学・医学賞に京都大学特別教授の本庶佑先生が受賞した。日本人として26人目の
ノーベル賞受賞者であり、生理学医学賞そしては5人目になる。


10年ほど前から毎年のようにノーベル賞受賞者として下馬評に上っていただけに、ようやくゴールテープを切ったという思いがする。

 

特許もノーベル賞も「世界で最初の発明・発見」の価値を認められた時に出るものである。特許に「最初の発見」というきまりはないが、最初の発見があるから世界初の発明に結びつく。そう考えると、どちらも同じ動機で価値が認められることになる。

 

本庶先生の発見は免疫機構の基礎的研究の成果であり、それをもとに免疫療法の治療薬の開発という発明へとつながっていった。当然、そこには特許が絡んでいる。本庶先生の基礎研究は、免疫細胞の中のT細胞にPD-1という物質があることを発見したことから始まる。

 

私たちの生体は、体外から入ってくる細菌・ウイルスや毒害を持った化学物質などを認識すると免疫細胞が攻撃して無毒化にしてくれる。
同時にこの機能は、体内で発生したがん細胞なども攻撃して無毒化してしまう。つまり体の外からの敵の侵入と体内で発生したいわば暴力団まがいの敵を退治してくれる機能を持っている。
この免疫機能が働くから、私たちは毎日、健康で無事に生きていることができる。

 

たとえて言うと自衛隊と警察が免疫機能である。外敵が来たら自衛隊で撃滅し、国内で悪さをする奴がいると警察が取り締まって撃滅する。これらが免疫である。


ところががん細胞は、PD-1に結合する物質を作って免疫力が発揮できないようにしてしまう。こうすることでがん細胞は、免疫力に攻撃されないからどんどん増えていく。

 

つまりたとえは不適切かもしれないが、がん細胞は警察の武器を使わせないようにしてどんどん増えていく。
PD-1に結合するたんぱく質を作ってやると免疫力がなくなってしまうことを利用してがん細胞は増殖する。

 

 


本庶先生のノーベル賞受賞の解説をする筆者(2018年10月2日のテレビ朝日の番組で)


免疫力を取り戻すメカニズムに気が付く
生体の持っている免疫力をうまく使えばがんに対抗できる。そのことに気が付いた本庶先生は、それならばがん細胞が作り出すPD-1と結合する機構をブロックしてやれば、免疫、つまり警察力は無事に働いてがん細胞をやっつけてくれるはずだ。ブロックする薬剤を開発すれば、がん細胞をやっつける免疫療法ができるはずだ。
そう考えた。

 

これはがん療法を根底からひっくり返す考えでもある。というのは、がん治療法は、手術によるがん患部の除去、X線照射によるがん患部の攻撃・滅亡、抗がん剤という化学療法によるがん患部の攻撃という3つの療法が主流だった。

 

ところが本庶先生が考えたのは、がん細胞を直接相手にして対抗するのではなく、生体がもともと持っている
免疫という警察力を復活させてがん細胞をやっつけようとする発想だった。

 

生体の持っている抗がん力を使うというのは自然にかなっている治療法だ。がん細胞が繰り出すPD-1を結びつく機能を妨害する薬剤を作って投与すれば、あとは免疫力でがんをやっつけてくれる。

 

薬剤開発には、研究開発が必須であるし、そこには特許技術が絶対に必要だ。本庶先生が開発するのではなく、薬剤開発に慣れている製薬企業と手を組む必要がある。

こうして本庶先生の実用化への戦略という第二の幕を開けることになった。

(つづく)

PAGE TOP