潮流 (No.98)

馬場錬成

2018.06.26

日本を追い抜いた中国の科学技術研究と知財制度 (その2)

急進する中国の大学の研究実力

前回に続いて中国の科学技術力と知財制度について近況を報告する。ここで引用する各種データは、研究開発法人・科学技術振興機構(JST)の沖村憲樹元理事長とJST中国総合研究交流センターでまとめたものなどを使用する。

日中の大学で最も違う点は、大学の規模の大きさと多彩な専攻課程である。先日、筆者は武漢理工大学に招かれて「21世紀のノーベル賞」のタイトルで講演を行った。

 

同大学の学生数は5万人、全員が学生寮に入っている。大学のキャンパスそのものが一つの学園都市を形成しているような感じだ。

このように中国の大学はどこも規模が大きく、専攻する過程も幅が広い。留学生を多く引き受けているのも全寮制の制度と専攻課程の幅広さからくるのではないだろうか。

 

その大学が年々、力を付けてきている。「QS World University Ranking 2017」の世界の大学ランキングを見ると、200位内にあった中国の大学は、2004年は5大学だったが、先ごろ発表された2017年には12大学に急増している。
ちなみに日本の200以内の大学は、2004年に11大学だったものが、2017年には8大学に後退している。

 

世界ランキングでのシェア拡大(含む香港)

 

 

 

 

 

中国の大学は中国のイノベーションを牽引

中国の大学は、国家のイノベーションをけん引するように義務付けられている。国家が大学の社会貢献、産学連携を本質的な義務としているからだ。したがってどの大学も特許の保有数、技術移転の実施数、大学発ベンチャー企業の数などの競争は避けられない。

 

その根幹となっているのが、大学周辺に設立されているサイエンスパーク、インキュベータ、技術移転センターなどである。主要94大学のサイエンスパークの総売り上げは7794億円になっている。
例えば精華大学には、サン・マイクロシステムズ、P&G、トヨタ、東芝、NECなどのIT、光学機器、バイオ製薬、金融など世界一流企業が研究室を設立している。

 

急増する大学の特許出願・登録件数

2016年の中国の大学の特許出願・登録件数のランキングは次のようになっている。 

  

 

中国の全大学の特許出願件数は、38万4423件で日本のそれの実に38倍。

特許保有件数も12万1981件で日本の大学の33倍になっている。

 

日本の大学のトップ5を見ると、中国の大学とは比べることができないほど少ない。

 

  

このように知的財産活動が活発だから、これを実用化する大学発ベンチャー企業も多数出ている。例えば中国教育部大学校弁企業統計概要公告によると、北京大学の方正集団有限公司の2014年の売上高は、約2兆2762億円である(OECD 購買力平価により計算)。これは中国でトップである。

 

方正集団の事業は、ソフト、ハード、新材料、通信関連など多角的である。 ソフトでは、電子写植機を引き継ぐ電子出版ソフトの開発だ。中国語DTPソフトでは全世界の80%のシェアを持っているとされており、新聞編集出版、中国語カラー印刷、 電子媒体、地図情報ソフトなどを開発した。

 

最近は指紋識別ソフトも開発している。これらの研究開発は、北京大学計算機科学技術研究所で行われていたが、1995 年に方正と研究所の共同設立の形により方正技術研究院を設立し、事実上方正の研究開発部門と研究所とが一体化されて運営されるようになった。

 

一方、ハードの分野では、デスクトップ・パソコンで中国国内第2位の地位にあり、ノートブック・パソコンでもシェアを広げている。

北京大学の方正集団に次いで清華大学のベンチャー・同方股份有限公司の売り上げは約1兆3645億円に上っている。この企業は、情報システム、コンピュータシステム、ブロードバンド通信などの技術開発であり、最近はエネルギーや環境関連の技術開発にも発展している。

 

 

世界に類を見ないハイテクパーク政策

 

中国ではなぜ、大学の研究開発が実用面を重視し、イノベーションをけん引するようになったのか。それは中国の企業は研究開発部門が非力であり、生産基盤を持っていても最新技術開発が追い付かなかった。

 

大学の研究開発は、いわば企業の研究開発を補填する位置づけをすることになり、しかも21世紀に入ってIT技術の進展からIoT(Internet of Things)へと急進展したため、大学の研究成果が一挙に実用化につながる時代に入った。

 

その時代認識に立った中国政府は、大学周辺に国家ハイテクパークを設立し、産業基盤のインフラ整備へと舵を切った。国家ハイテクパークは、2015年に10テーマで842か所に広がり、このほかに地方政府や自治体などが運営するハイテクパークは、2000以上もある。

 

中国の企業の研究開発力の非力を大学の研究開発で補填するという構図が成功している。ただ、中国の企業も自社技術開発で急速に力をつけ、ハイアール、ファーウエイ、アリババなど世界トップクラスの技術開発企業が続々と誕生している。

 

 

 

中国の研究開発の急進展は、まさにIT産業革命時代の流れに乗ったものであり、これまでの研究基盤や産業基盤が十分でなかったことから、いきなりIT技術に取り組んだため、過去のしがらみにこだわらずに一挙に成果をつかみ取るということになったものだろう。

(つづく)

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