潮流 (No.96)

馬場錬成

2018.05.01

2017年中国の知財10大事件

2017年の中国10大知的財産事件

このほど中国人民法院が発表した2017年の中国の10大知的財産事件は、まさに中国の知財現場が急速に進展していることを示している。毎年、このような発表を行っているが、年を追ってその内容がレベルアップしていることは間違いない。

 Beijing Sanyou Intellectual Property Agency Ltd .(http://www.sanyouip.com/japan/)のメルマガ配信で提供された情報を紹介すると次のようになる。

 

2017年中国10大知的財産事件

1. 広東加多宝飲料食品有限公司と広州王老吉大健康産業有限公司、広州医薬集団有限公司の間で争われた
     有名商品に特有の包装‐装飾の無断使用紛争2件〔最高人民法院(2015)民三終字第2、3号民事判決書〕

 

2. 西峡竜成特種材料有限公司と楡林市知識産権局、陝西煤業化工集団神木天元化工有限公司の間で争われた
     特許権侵害紛争行政処理事件〔最高人民法院(2017)最高法行再84号行政判決書〕

 

3. 福州米廠と五常市金福泰農業股份有限公司、福建新華都綜合百貨有限公司福州金山大景城支店、
      福建新華都綜合百貨有限公司の間で争われた商標権侵害紛争事件
      〔最高人民法院(2016)最高法民再374号民事判決書〕

 

4. 国家知識産権局特許審判委員会と北京万生薬業有限責任公司、第一三共株式会社の間で争われた
      発明特許権無効行政紛争事件
     〔最高人民法院(2016)最高法行再41号行政判決書〕

 

5. 商務印書館有限公司と華語教学出版社有限責任公司の間で争われた商標権侵害及び不正競争紛争事件
     〔北京知的財産法院(2016)京73民初277号民事判決書〕

 

6. 沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡と南京経典拍売有限公司、張暉の間で争われた著作権帰属‐著作権侵害紛争事件
     〔江蘇省南京市中級人民法院(2017)蘇01民終8048号民事判決書〕

 

7. ジャガーランドローバー自動車公開有限会社と広州市奮力食品有限公司、万明政の間で争われた
       商標権侵害紛争事件〔広東省高級人民法院(2017)粤民終633号民事判決書〕

 

8. 四川中正科技有限公司と広西壮族自治区博白県農業科学研究所、王騰金、劉振卓、四川中昇科技種業有限
      公司の間で争われた植物新品種権侵害紛争事件
      〔広西壮族自治区高級人民法院(2017)桂民終95号民事判決書


9. 鶴壁市反光材料有限公司と宋俊超、鶴壁睿明特科技有限公司、李建発の間で争われた
      営業秘密侵害紛争事件 〔河南省高級人民法院(2016)豫民終347号民事判決書〕

 

10. 北京易査無限信息技術有限公司、于東による著作権侵害罪事件
       〔上海市浦東新区人民法院(2015)浦刑(知)初字第12号刑事判決書〕

 

日本企業の紛争もあげられた

10件の紛争内容を見ると商標権侵害事件が3件、著作権侵害事件が2件で半分を占め、残りは包装‐装飾の無断使用紛争事件、特許権侵害事件、特許権無効行政紛争事件、植物新品種権侵害紛争事件、営業秘密侵害紛争事件となっている。知財の多様な権利をめぐる紛争が広がっている印象を受ける。

 

この中で日本企業が出てくるのが、4番目にある「マーカッシュクレーム」特許無効行政紛争事件である。国家知識産権局特許審判委員会と北京万生薬業有限責任公司、第一三共株式会社の間で争われた特許権無効をめぐる行政紛争事件である。

 

この事件は、マーカッシュクレーム(1つの請求項で複数の並列的で選択可能な要素を特定する請求項)についての紛争であり、新判例として挙げている。この新判例については、三友パートナー特許代理人の龐東成先生が分かりやすく丁寧に解説している。( http://www.sanyouip.com/japan/a/9774.htm )

 

植物新品種をめぐる紛争

8番目にあげられた民間企業とベトナムと国境を接する中国南部の広西壮族自治区博白県農業科学研究所との植物新品種をめぐる権利侵害事件である。2003年から2015年にわたる農業研究所の新品種開発と民間企業の実用化をめぐる権利争いである。

 

   
博白県農業科学研究所が開発したコメの新品種。「博ⅢA」として登録されている。この品種をもとにさらに新品種が開発され、実用化される過程で紛争が出てきた。


この紛争で注目したいのは、中国の南西のベトナム国境に接する自治区の農業研究所で開発されたコメの新品種が植物新品種として登録され、権利化された後に契約書を交わして実用化を行った点である。

日本から見ると辺境の地とも思える地域でも品種改良に取り組み、成果をきちんと権利化して民間企業に移転して実用化している点であり、2003年からこうした活動を始めていることだ。

 

また、契約上の紛争については、地元の広西壮族自治区高級人民法院が複雑な事情をきちんと認定して侵害と判断し、損害賠償金の支払いを命じている。知財の司法判断が、こうした辺境の地に見える地域でも機能していることを示しており、中国人民法院が10大知財事件の一つとして取り上げている点もその事情を汲んだものだろう。

 

アジアのダボス会議での習近平主席の演説

さる4月10日、習近平主席は中国の海南島で開催されたボアオ・アジアフォーラムで、中国の知財保護強化を主張するスピーチを行い世界から注目を集めた。このフォーラムは、アジアのダボス会議と言われ、近年、存在感が急速に出てきている。

 

開会式に出席した習近平国家主席は「開放が繁栄を創造しイノベーションが未来をリードする」とのタイトルで講演を行った。この中でまず、知的財産保護を強化するには、財産権制度改革が最重要課題であることをあげた。


この一両年、中国は矢継ぎ早に知財制度改革を進めており、今年になって知財行政組織の大幅な再編を発表している。この内容については、いずれこのコーナーでも紹介したい。

 

習近平国家主席だけでなく中国の要人は、ことあるごとに知財は中国の経済競争力を高める最大のインセンティブであることを強調している。このためにも国家知識産権局を再編し、法執行力を強化する一方で違法コストを大幅に上昇させ、法律の抑止効果を充分に発揮させることなどを主席は強調した。

 

また、中国と外国企業の正常な技術交流協力が実施されるように奨励し、中国の外資企業の法的知的財産権を保護することなどにも言及した。知財をめぐって米中間で紛争になっていることを意識したスピーチであり、中国の知財近代化が着実に進行していることを印象付けた。 

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