潮流 (No.94)

馬場錬成

2018.02.01

IP HOUSE・発明通信社共催のセミナーから見た
中国知財司法活動の現況 -(下)

日本を抜いたか中国の知財政策


中国の知財制度は、日本を追い抜き米中二大知財大国へと歩いているように思う。日本で毎年策定して発表している知財推進計画とよく似た知財政策を国務院から発令し、国家の行政府から省レベルの地方行政まで施策されていく。 ピラミッド型に築き上げて政策を展開する中国共産党政権の最も強い政策実施である。

 

日本の制度のいいところを取り入れた知財制度に見えていたが、いまや中国の施策方針の方が先鋭的であり、
日本を一歩抜いていったように筆者は感じている。

 

特許事件の損害賠償の動向
普先生に代わって中国の特許事件の動向を解説しながら講演したのは、元知財判事の応向健先生である。
まず中国の司法が判決を出した2015年の訴訟件数は、発明特許で646件、実用新案1127件、意匠2890件である。意匠訴訟件数が突出していることに注目しておきたい。

 

こうした判決の平均賠償金額の傾向を見ると、グラフで示したように2016年になってぐんと上昇した。これと同調するように、
裁判所の賠償支持率もぐんと上昇している。

 

 

  

 

 

中国の企業、社会全体が知財に対する意識が向上し、権利を主張する風潮が強まっていることと無関係ではないだろう。この傾向は、これから数年の間に驚くほど上昇するように筆者は予感している。

 

興味深い発表は、特許紛争の中で原告が負けた損害賠償請求を棄却された事件の分析である。
2013年から16年までに原告の訴えが棄却された事件は1084件だった。これは事件全体の約20パーセントだったという。

 

 

 

原告が敗訴した原因を分析して統計をとったものが上のグラフである。「特許の権利保護に入らない」とした理由が606件あり、全体の56パーセントになっている。
権利なしとして敗訴したとはいえ、権利を主張することは、知財の世界では当然である。この数字は、権利意識が強い中国社会を反映しているようにも思われる。

 

続いて2番目に多いのが、「既存の技術または設計」とされた理由で、210件で全体の19パーセント、「原告の挙証不能」の理由も同じく210件、全体の19パーセントだった。
この3つの理由で全体の約95パーセントを占めていた。

 

中国の知財裁判は原則として二審制だが、二審で一審判決を変更して賠償金額を上げた判決が出ているのは36パーセントであり、逆に減額した判決は12パーセントだった。


中国の法定賠償制度の動向
中国特許法(専利法)の第65 条(特許権侵害の損害賠償額計算方法)は、「権利者が権利侵害行為により受けた実際の損害が確定できない場合、権利侵害者が権利侵害行為により得た利益に基づいて決定する」としており、裁判所が「1 万元以上 100 万元以下の賠償額を確定できる」としている。

 

この法に基づいて中国では法定賠償支払い判決が出ているのが普通であり、全体の特許侵害事件の判決の実に98パーセントに及んでいる。

 

 

法定賠償金判決でも、法で定めている100万元(日本円でおよそ1700万円)の上限を超える賠償支払いの言い渡しも出ている。100万元を上限にしているが、実は中国には、法定賠償の上限を超えて賠償額を確定する「裁量賠償」の仕組みがあるからだ。

 

中国の物価は、国際レベルに比べるとまだ低かった時代、外国企業から見ると不当に安い賠償金額と見られることもあった。一方で知財の価値は、国際レベルにしなければ真の国際競争力は得られない。そのように中国政府は考えたのではないというのが筆者の推測である。

 

このため外国企業を巻き込んだ侵害訴訟の賠償金支払い判決には、裁量賠償で上限を超えるものが出てきている。次のグラフは、法定限度額を超える損害賠償支払いを命じた特許事件の分析である。

 

 

 

 

2007年から2017年10月までのほぼ10年間の法定賠償金額の限度額を超えて賠償支払いを命じた判決は、発明特許で17件、実用新案で7件、意匠で3件が出ている。

 

これについて応先生は「知財司法が、知財価値を十分に保護するべきという方針を示した結果である」としている。

 

 

中国知財はどこまで進歩するのか

上のグラフは法定限度額を超えた賠償金支払いを命じた判決の分析である。100万―300万元(日本円でおよそ1700万円―5100万円)までが12件、300-500万元(同5100万円―8500万円)が11件と集中しているが、1000万元以上(1億7000万円)も出ている。

 

応先生は、高額の賠償金支払いを命じた判決で、裁判所は「実際の侵害をもって損害賠償額を計算している。裁判所は特許製品に対する貢献率を考慮している」とコメントしている。

 

討論に移行したとき筆者は、「中国は米中二大知財大国を目指しているようにみえるがどうか」とやや刺激的な質問をした。これに対し普先生は次のように述べた。

 

「国家の政策的なことはコメントできないが、司法政策の観点から次のようにコメントできる。
第1に知財裁判所を北京、上海、広州に設立し、知財保護の方向が加速している。例えば北京の知財裁判所が知財保護の判決を打ち出せば、地方の裁判所に与える影響は大きい。
最高人民法院が判例指導を打ち立てていることも重要だ。個々の判決は徐々に判例法にむかっているようだ。
知財専門裁判所の設立と整備など知財司法の整備は着々と進んでいると言える。発明特許、実用新案、意匠、商標の出願数、知財訴訟の件数など各種の数字では世界トップになっているが、これだけで米中二大大国と言えるかどうは、一概に言えない。
ちなみに日本はいまでも知財強国である。日本企業は知財をきわめて重視しており、日本に学ぶことはまだ多い」

普先生の客観的な見方に感銘を受けたセミナーだった。

  

 

セミナー会場で記念撮影。左から応先生、晋先生、筆者、方針中国弁護士

(終わり)

 



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