潮流 (No.92)

馬場錬成

2018.01.05

IP HOUSE・発明通信社共催のセミナーから見た
中国知財司法活動の現況 -(上)

中国の知財司法が先進国型に

中国の大手知財訴訟代理機構の知財宝(IP HOUSE)と発明通信社の共催による「中国知財裁判情報セミナー」
がこのほど東京、大阪、名古屋で開催され、中国での知財司法の現況が報告された。
このセミナーの内容を3回に分けて解説・論評してみたい。

筆者はちょうど一年前に北京の知財関係機関を歴訪し、中国の知財司法を取材してきた。
中国の知財活動の中でも、もっとも先進国に近づいてきたのが知財司法である。アメリカ型に急接近しており、
日本の知財司法を抜いていったと見ている。
アメリカの企業同士が中国で特許侵害訴訟を展開していることを見ても明らかだ。

 

 知財宝の普翔・CEO(最高経営責任者)の講演

セミナーで講演を行った知財宝の普翔・CEO(最高経営責任者)は、中国の知財専門裁判所の裁判長を
務めた経歴を持つ人で、いま、知財宝のトップに立ち、知財裁判の弁護士(代理人)として活躍している。
普先生が指摘したのは、先進国の先端企業が中国に進出してくる際に、中国の司法保護の
①透明性
②公開性
③基準
の統一性が不十分ではないかとの危惧があるということだった。

確かに以前は、司法の地方保護主義や原告・被告ら訴訟当事者と判事の癒着などが言われてきた。
筆者の取材でも、あちこちでその話を聞き、その事実は否定できなかった。
ところが、この数年この3つの危惧は、大幅に払拭されてしまったと感じている。特に北京、上海、広州に
知財裁判所が設立されてから中国の知財司法は、先進国型に進展している。

 

アメリカのはるか上を行く知財訴訟件数
普先生は、アメリカ各地で開催されたセミナーなどで、中国の知財司法の様変わりを訴えて
理解されてきている現況を報告した。
中でもアメリカだけでなく、世界中が驚いているのが中国での知財訴訟件数である。

  

 

 

グラフで見るように知財事件の新規案件数は2016年に17万7705件に達している。これに対し、知財事件の
終結案件数は17万1708件であり、新規案件と終結案件は、ほぼ平行している。いかに中国の知財司法が
精力的に案件をこなしているかが分かる。

世界中から訴訟王国と揶揄されているアメリカの知財訴訟は約1万7千件だから、中国はその10倍にあたる。
日本は、数百件である。普先生は「2017年には、約25万件になるだろう」と推測している。
驚くべき急増である。

では司法判断はどう評価されているのか。中国で活動する米国企業の商工会の調べによると、
アメリカ企業の評価では、2016年には86パーセントの企業が「いい方向に向かっている」と評価している。
それが2017年には95パーセントの企業が同様に評価しているという。

 

急増する著作権侵害訴訟

中国の知財司法の特徴は、急増する著作権侵害事件である。普先生が示した2013年から2016年までに判決が
出された民事事件の件数は、驚くような数字だった。

  

 

  

グラフで見るように2016年の民事事件の著作権判決は、1万4569件であり、商標判決の4669件、
特許判決の2538件をはるかに上回っている。

著作権侵害事件の件数が急増しているのは、コンピュータ文化の急進的な発展と普及によるものだ。
ソフトウエア―、アニメキャラクターをはじめ文字、音楽、録画・録音などの著作権、オンラインゲームなど
インターネットを介したアップロード、ダウンロードなどをめぐる紛争である。

中国では、日本と同様に独創性を有する作品は、作品完成時点から著作権が発生する。
この権利を簡便に守る制度として作品登記(著作権登録)制度がある。ここに作品を登記すれば、
「作品登記証書」が発行されて著作権を有しているという証明になる。つまり作品登記証書は
権利者の証拠として利用され、この制度を活用した訴訟が多数出ているという。

 

賠償金支払い判決も増加傾向にある
次に普先生が発表したのは、中国の知財司法の一審判決で、損害賠償支払いを命じた賠償額の推移である。 


 
  

 

グラフで見るように、2016年の特許権侵害訴訟の賠償金支払い金額の平均は、16万5504元(日本円でおよそ282万円)だった。
同様に商標侵害訴訟の賠償金支払い額の平均は3万8,163元(同65万円)、著作権侵害賠償金支払い額は、
1万699元(同18万円)だった。

この賠償判決で驚くことは、2013年からたった4年間に、特許の賠償金支払額が3倍以上に
増額していることだ。司法判断が短期間のうちに保護重視に舵を切っていることを示している。

なぜこうなってきたのか。
中国の国民、企業が知財の重要性を認識し、同時に権利意識が急激に増してきたからであろう。
この傾向はまだとどまるところを知らない。
いずれ、中国で活動する日本を含む国際的な企業は、この中国の知財意識の変革にさらされ、
紛争に巻き込まれていくだろう。
(つづく)

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