潮流 (No.88)

馬場錬成

2017.07.06

地盤沈下が心配される日本の科学研究

TOP10論文数の国際シェア

 
各国の質の高い論文が、世界の中でどのくらい占めているか。科学研究の動向を調べるため、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)情報企画部情報分析室の伊藤裕子研究員らは、他の論文に引用された回数の上位10パーセントに入っている論文(トップ10%論文)のシェアを国別に調べた。

 

その結果を引用しながら解説したい。

 

対象となった論文は、Scopus(スコーパス)に記載されている論文で、ここはエルゼビア社が提供する世界最大級の抄録・引用文献データベースである。

 

 


ばらつきが大きい日本の研究成果

 

まず2010年から2015年までに出版されたトップ10%論文を27分野で調べた結果がある。

 

これに対し日本は、分野別でシェアの順位のばらつきが激しい。たとえば、ビジネス・マネジメント・会計学、決定科学(システム科学)、保険医療、社会科学などは20位以下のシェアであり、経済学・計量経済学・財政と心理学は共に18位、人文科学16位となっている。

 

このような国は今回調査の6か国にはない。フランスも歯学で19位があるが、あとはほとんど10以内である。中国にしても、心理学で12位が最低で、あとの26分野はすべて10位内に入っている。

 

日本では、人文系の学問が世界の水準で見ると極めて低い。自然科学分野は健闘しながらトップ6位の中に食い込んでいるものが多いが、国全体の学術研究レベルを見ると分野間で格差が激しいことが分かる。

 

大学の国際比較でも、日本を代表する東大、京大などは、アジアの大学の中でも埋没している。これは大学の人文系の評価が低いためだと東大工学部の教授から聞いた。国際性に取り残されているという指摘も出ているが、人文系の研究者は是非、奮起してシェアを上位にあげてもらいたい。

 

 

材料分野のシェアをみる


材料分野の研究は、プロセス技術(結晶の成長、薄膜化、焼結、鋳造、圧延、溶接、イオン注入、ガラス形成など)や、分析評価技術(電子顕微鏡、X線回折、熱量計測など)および産業上の材料生産などである。

 

昔から日本得意の分野であり、1996年にはトップ10%論文シェアはアメリカについで2位であり、約13パーセントを占めていた。

 

それが2015年には約5パーセントまで低下し、世界トップは中国の約33パーセントになった。アメリカが21パーセントで2位につけている。

 

 


材料科学のトップ10%論文シェアの各国別シェアを見ると、グラフのように中国が急進的に上がってきたことが分かる。他の国はいずれも着実にシェア率を下げているのは、中国にシェアを奪われたからだ。

 

 

コンピューター科学・数学の場合

 

21世紀から本格的に始まったIT分野の中核に位置するコンピューター科学・数学の分野はどうか。

 

1996年にはアメリカが50パーセントのシェアを超えて圧倒的だったが、徐々にシェア率を落とし、2015年には史上初めて中国に首位を明け渡した。

 

日本はシェア率を高めてい入るが、6か国の中では最下位である。ここでも近年の中国の台頭ぶりが目立っている。

 

 

 

 

 中国のシェアの伸びを分析すると 


中国はなぜ科学研究分野で急激に伸びているのか。その理由を分析してみた。まず研究予算がけた外れに巨額なことだ。

 

高等教育機関への投資を見ると2003年に中国は8兆円で、日本とほぼ同額だった。これが2014年には約26兆円となり、日本は、8.8兆円にとどまっている。

 

中国の国家財政歳出を調べてみると、2014年の教育支出は68.3兆円、科学技術支出は15.7兆円で合計84兆円になっている。

 

日本は文教および科学技術支出は5.4兆円だから中国の方が15.6倍も多いことが分かる。


2014年の研究費を抜き出しても、中国は38兆円で日本の19兆円の2倍になっている。アメリカは46兆円だから中国の上になっているが、トランプ政権は科学予算を削減するとしており、中国は逆に科学振興を国是としている。数年後に米中が逆転するだろう。

 

中国の「科学技術進歩法」第六章第五十九条によると、「国が科学技術の経費に投入する財政資金の増加幅は、国家財政における経常収入の増加幅を超えるものとする」と明記してある。

 

中国政府は常に潤沢な科学技術予算を確保するように法で決めており、これが科学技術研究の勢いをつけていることになる。

 

21世紀になってから、中国は海外で活躍する中国人研究者を母国へ戻す戦略を展開し、多くの優秀な研究者が戻ってきた。日本にいた優秀な中国人研究者が帰国した例もみられる。

 

中国政府が法外な報酬や研究条件を提示しているもので、好環境の住居はもちろん、配偶者の勤務先、子弟の学校の希望などに配慮した至れり尽くせりの条件を提示して呼び戻しているものだ。まさに国家的な戦略だ。

 

JSTの元理事長の沖村憲樹氏は「中国の科学技術は日本を抜いた」というテーマで講演していたのは3年ほど前である。当時、日本の多くの学界、産業界はこの提示を無視するか疑問視していた。

 

しかしこの予言はもはや動かしようがない。将来、中国人のノーベル賞受賞者ラッシュが始まる予感がする。

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