そよ風 (No.364)

東方幸男

2017.05.16

タイプライタ

ある特許関係のOBが集まる会合の後で、電車の座席が隣になり聞いた話です。

 

その方は大手の機械業種の企業で活躍された人です。そこの会社は家庭でよく使うミシンを古くから生産・販売しているメーカです。

 

私が以前からこの会社に興味をもっていた質問をしたのです。専業メーカとして著名なところなのに、どのようにして異なる様々な商品を開発して多角化して来たのかという疑問です。家庭用のテレビまで商品化し、通信カラオケまでもやっています。

 

本業のミシンは機械的なものが電子化されコンピュータ制御が進んでいましたので、電気の分野に進出することは会社全体の技術的なシナジーを考えたら不思議ではないのですが、テレビまで作るとはと不思議に思って聞いてみました。実はテレビはある企業にOEMで作ってもらっていたので、開発まではしてなかったとのことでした。

 

しかしながら、商品開発の提案から事業化までの素晴らしい体験談をお聞きしました。

 

このメーカは、現在ではプリンタ市場では大きなシェアを確保しています。そのプリンタへの参入過程の話です。

 

参入当時のタイプライタは、文字キーを叩くことで、機械的な動作でタイプバーつまり印字用のアームでインクリボンを介して紙に打ち付けるインパクト形式が主流でした。そうした中でIBM社が画期的な商品の電動タイプライタを開発したのです。1961年に発表したIBMセレクロリックタイプライタです。私も記憶していますが、丸いボール状の表面に印字用の文字が並べられた印字部が、くるくると回るように踊るように動き、順次印字をして行くのです。印字部がゴルフのボールのように見えたので、ゴルフボールタイプライターと呼ばれました。

 

電動なので、キーボードを押す力で印字するのではなく、キーボードの所定のキーに触れる(押下する)と、くるりと回ってその文字を印字するのです。このゴルフボールを交換することで、様々なフォントの文字を打つことができ、大変画期的な商品でした。

 

このお話を伺った人は、このタイプライタを上回る文字ヘッドのいらないワイヤーを打ち付けることで文字や記号を表現するドットプリンタを作ろうと会社に提案しました。

 

当時は特許部門に所属していたので、特許情報を調べ、基本的な構成技術と具体的な実現方法を調査し、この技術ならわが社でもミシンで培った針を移動する技術を応用することで開発できる可能性が十分あると確信して新規ビジネスの提案をしたのです。

 

提案は見事採用され、新しい商品の開発が許可されました。誰が担当するかという段階で、既存のビジネスの推進をしているところから手を挙げる余裕のある部門が無かったといいます。そこで特許情報から学んだとはいえ、社内で一番技術に詳しいお前がやれと言われ、特許部門から開発部隊に移動になったとのことです。

 

その後、開発を推進するとともに、必須の特許の実施契約交渉まで前面に立ち、苦労して実現させたのです。その後特許部門の長を務め、定年を迎えました。

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